表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢が攻略対象ではないオレに夢中なのだが?!  作者: naomikoryo


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

12/32

第11話『風の国からの使者と、再び動き出す運命の輪』

 その日、ロゼリア王立魔法学園の空は、鈍い風に包まれていた。

 雲の流れが早く、季節外れの風が塔の尖端に鳴り響いている。


 だが、それはただの天気のせいではなかった。


 「――風の国“エルストラ”より、特命使者として参上した。魔術師団【疾風の梟】所属、レミオ・エル=ハウゼと申す」


 彼の姿が校門に現れたとき、空気が明らかに変わった。


 灰銀の髪をなびかせ、精悍な目をした青年。

 その装いはロゼリアとはまるで違う。幾何学模様を縫い込んだ法衣に、風属性の魔力が宿っている。


 「……また、ややこしいのが来たな」


 カイは屋上からそれを見下ろしながら、肩をすくめた。


 (なんでワイが“外交問題”に巻き込まれとんねん……ワイ、数学教師やぞ……?)


 「王立魔法学園のクロス・カイ殿に、我が国の王より正式な招聘を申し上げる」


 レミオは、学園本部の会議室で直立しながら告げた。


 「君の“数理魔導論”は、エルストラ魔術師団にとっても非常に価値が高い。

  よって、当国への技術顧問としての在任を要請する。滞在期間は……まず半年」


 それは“引き抜き”だった。


 それも、かなり本気の。


 「……いや、ワイ、教師やから。ここで教えとるだけや。生徒おるし、アメちゃんも配らなあかんし」


 「……アメ?」


 「いや、こっちの話や」


 魔導省の監視下にあるとはいえ、カイはあくまで“自由意志の教師”である。

 エルストラはその隙を突いてきた。


◆◇◆


 一方その頃、ルーティアは生徒たちと共に、談話室でその噂を聞いていた。


 「クロス先生、隣国にスカウトされたらしいよ」

 「えっ、じゃあこの学園、辞めちゃうの?」

 「嫌だよ……クロス先生の授業、他の誰も真似できないのに……」


 ルーティアの心臓が、ズキリと疼いた。


 (……また、“距離”ができる)


 (今度こそ、本当に……“もう話すこともない”関係に、なるかもしれない)


 不安が押し寄せる。

 この一か月で、ようやく日常が戻ったはずだったのに。


 でも、ただ戻っただけじゃない。

 カイの声が、姿が、言葉が、気づけば彼女の中に“溶けて”いた。


◆◇◆


 その夜。


 ルーティアは思わず、自分でも信じられない行動に出た。


 教師寮の前まで、足を運んでしまっていた。


 (なにやってるの、私……もう“契約”は終わったのに)


 それでも、足が止まらない。


 ドアの前で、ノックもできずに立ち尽くしていると――

 不意に、扉が開いた。


 「……あれ、覗き見か?」


 「ち、違うわ! 今、ちょうど通りかかっただけで!」


 「まさかのこの時間に教師寮を?」


 「いいから黙りなさい!」


 ……そして、いつの間にか、カイの部屋の椅子に座っていた。


 「エルストラの話、聞いたわ」


 ルーティアが切り出す。


 「……ああ。ワイとしては行く気ないけどな。めんどいし」


 「めんどいって……国が動いてるのよ? どれだけ大事か分かってるの?」


 「分かってるからこそ、面倒や言うとんねん。ワイは“目の前の生徒”を教える方が性に合うんや」


 「…………」


 ルーティアは何かを言いかけたが、言葉が出なかった。


 ふと、カイがソファの横から飴の瓶を取り出し、差し出してくる。


 「ほれ。お嬢様、久々にアメちゃんでも食うとき」


 「……また、それ」


 けれど、断らなかった。


 包み紙をほどき、飴を舌にのせると、ほんの少しだけ甘さが心に染みる。


 「……ほんとはね、ずっと見てたの。あなたの授業も、生徒とのやり取りも」


 「せやったんか?」


 「私……分からなくなったの。“仮”の関係を終えたら、楽になると思ってた。でも――」


 言葉が喉の奥で詰まる。


 カイは、何も言わずにただ静かに見つめていた。


 ルーティアは立ち上がり、ドアの方へ歩き出す。


 けれど、手をかけたところで、振り返った。


 「……あなたが、どこに行くかなんて、私には関係ない。

  でも……“この学園の教師”でいる限り、私は“あなたの生徒”でいるから」


 「……おう。教えることは山ほどあるで?」


 「ふふっ、楽しみにしてるわ」


 そう言って、今度こそ彼女は静かに去っていった。


◆◇◆


 そしてその夜、学園の外れ。

 風が巻くように空間が歪み、レミオ・エル=ハウゼが報告の封筒を広げた。


 「……やはり、“数理魔導”はこの王国においても異物だ。

  放っておけば、均衡は崩れる」


 彼の隣には、もう一人、仮面の女魔術師が立っていた。


 「では……始めましょうか。“排除”の段階に」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ