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悪役令嬢が攻略対象ではないオレに夢中なのだが?!  作者: naomikoryo


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第10話『魔導省の審問と、破られる静寂』

 ロゼリア王立魔法学園の校門前に現れた漆黒の外套。


 その胸元に刻まれた紋章は、誰もが知っていた――

 王国最高魔法機関、魔導省マギア・オルドの象徴。


 その出現は、学園にさざ波のような衝撃を走らせた。


 「なぜ、魔導省がここに?」

 「教師の調査って……まさかカイ先生の……?」


 その噂は、瞬く間に校内を駆け巡った。


◆◇◆


 カイ・クロスは、その日も普通に授業を行っていた。


 黒板の前で「最短詠唱時間を関数で割り出す方法」について語っていると――


 教室の扉が、重々しく開いた。


 「失礼。魔導省より派遣された、特別調査官だ。君がカイ・クロスか?」


 現れたのは、年の頃三十ほどの長身の男。

 銀灰の髪をオールバックにし、鋭い目で教室を見渡していた。


 その背後には数名の部下と思しき術師たちが控えている。


 「……おぉ? そやけど、授業中やねんけど?」


 「学園側から許可は取ってある。“授業停止命令”を出した」


 (ちょ……いきなり来て潰すとか……どこのブラック企業やねん)


 教室の空気が凍る中、生徒たちの間に動揺が走る。


 「カイ先生が……調査されるの?」

 「まさか、異世界から来たって噂、本当だったの?」


 そのまま、カイは魔導塔の地下調査室へと連行されることとなった。


◆◇◆


 重厚な扉の奥、冷たい石の部屋。

 拘束こそされていないものの、彼の前には膨大な記録書と魔法陣の写本が並べられている。


 「君の授業内容、そして王宮で解いた“未解決魔導式”の情報も把握している。……異常な知識量だ」


 「ワイが数学の教師やからや。そら多少、計算には自信あるで?」


 「“多少”のレベルではない。君が使っている“関数魔導理論”……それは、王国に存在しない思想だ」


 「……せやから?」


 「つまり、“異邦の理”である可能性がある。君の知識は、王国の魔導体系そのものを破壊しかねない」


 (おいおい、数学教えただけで“破壊者”扱いは重すぎるやろ……)


◆◇◆


 一方その頃。


 ルーティアは、図書館の奥で魔導省の通達記録を必死に読み込んでいた。


 (……やっぱり。カイの“重力干渉式”が記録されたのは、王国史上でも初めて……)


 魔導省が“敵視”に切り替えた理由も分かる。

 彼の魔法理論は、王族直属の魔導機関にとって“制御不能な知識”なのだ。


 (だからって……)


 (だからって、彼を“異物”として切り捨てるなんて、そんなの……)


 ページをめくる手が、ぴたりと止まった。


 そこには、こう記されていた。


 >「魔導省の審問官に対し、証人資格を持つ者は、“王族または第一級貴族”に限る」


 ルーティアは、唇を噛んだ。


 (私が……動くしかない)


◆◇◆


 調査室。


 カイは魔導陣の資料を次々と見せられては、「この構造を解読してみろ」「この法則はなぜ成立する?」と問い詰められていた。


 「……あーもう、ええかげんにせぇよ。疲れるわ」


 「ふん。異邦人にはこれが“拷問”に映るか」


 「ちゃう。単にめんどいだけや」


 「……っ」


 そのとき、部屋の扉が勢いよく開かれた。


 「その者の証言は、私が保証します」


 堂々と入ってきたのは、真紅のドレスを身にまとった令嬢――


 ルーティア・フォン・ヴァレンシュタインだった。


 「第一級貴族、“ヴァレンシュタイン公爵家”の名において。この者の異常な能力が“王国への脅威ではない”ことを証明します」


 調査官が眉をひそめる。


 「……あなたは、彼の“恋人”ではなかったか?」


 「1か月前に契約は終了しています。ですが、教師としての彼の実力と、“誠実さ”は見てきました」


 「感情的な擁護は、証言としての信憑性に欠ける」


 「感情ではありません。事実です。

  ――この学園の複数の生徒が、彼の授業で魔法を開花させたのは、記録に残っているはずです」


 その凛とした姿に、カイは目を細めた。


 (……ほんま、えらいことになっとるな)


 けれど、その心の奥に、小さな灯が灯ったような気がした。


 (……お嬢様、あんたやっぱ、凄いわ)


◆◇◆


 翌朝、カイは再び教壇に立っていた。


 騒動は収まったわけではない。

 魔導省の調査は継続されるという通達もあった。


 けれど、生徒たちは全員、教室に揃っていた。

 その一番後ろの席に、ルーティアの姿も――あった。


 彼女はただ、何も言わず、教科書を開いていた。


 カイは、板書用のチョークを手に取り、こう言った。


 「今日は、みんなで“世界の外側”の話をしようか」


 そして物語は、いよいよ次の火種――

 “他国の魔術組織”の干渉へと、静かに向かい始めていた。

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