Act4 非番の日
「そういえば、帽子屋復活したって?」
食堂から自室への帰り道、立ち話をしている人の会話が聞こえてくる。
「そうらしいぜ。あのイカレ帽子屋が動くと味方も巻き込んじまうから皆ビビってる。亡者を殲滅してくれんのはいいけど、一緒に死にたくないもんな。」
イツジは考える。
帽子屋はある時の戦いで街一つ焼いた。
逃げ遅れた人が巻き込まれたのは事実だ。
その街が関所となっており、関所を破られると次の街に入られてしまう瀬戸際だった。
少しの犠牲を払い、多くの犠牲を防ぐ。
手のひらからこぼれる人々をどこまで減らせるか、そう考えてもイツジは自分でも帽子屋と同じことをしたと思う。
清々しい朝の空気を吸い込み、開いた窓から外を見る。
何もかも救える力なんて、誰も持ってない、窓を締めてイツジは歩き出した。
鉄網の上で肉が焼ける良い香りに包まれ、ご機嫌にジョッキからビールを煽る。
ベタにぷはあっと言いながら、肉を豪快に頬張る。
「やべえ、美味え。」
一人焼肉は慣れたもので、行きつけの店に今日も来ている。
非番の日は、真っ昼間から酒を飲む。
ここで腹一杯になってほろ酔いで部屋に帰って風呂に入って寝るというのが、イツジの休日スタイルだ。
次の肉を焼こうトングで肉を挟んだ時、ガラスの割れる音と悲鳴が聞こえた。
個室で楽しんでいたイツジは、そのまま肉を網に乗せる。
ただ、音が鳴り止まず。
面倒だと思いながら、ちらっと扉を開け、音のする方を見る。
観葉植物の置かれた通路の先で、男女が言い争っている。
痴話喧嘩か、と納得し、イツジは食事に戻ろうとする。
しかし、扉から半分だけ顔を出したイツジを見咎めるものがいた。
「イツジ、助けてくれ。」
何か聞き覚えのある声がする。そろそろと声をかけた相手を見ると、マッスルがそこにいた。
「えー。」
嫌そうな顔でイツジは扉を閉めようとする。
慌ててマッスルが呼び止める。
「待ってくれ、奢るから、今日のお前のメシ!」
そっと扉を開けたイツジは、ジト目でマッスルを見る。
「約束だぞ。」
渋々マッスルの方に行くと、そこには、小柄な女性がいた。
「何よアンタ、余計な口出ししないでよ。」
女性はすぐさまイツジに噛みつく。
「じゃあ、俺はそういうことで、撤収するわ。」
マッスルを見ると明らかに困り顔だ。
はあーと息をつき、頭を搔きながらだるそうにイツジは話し出す。
「まあ、コイツと何があったのか、話を聞かせてもらうだけでも。」
女性は睨みながら、イツジに近づく。
「アンタ、こんな奴と仲いいの?付き合う相手選びなさいよ。」
説教が始まった。
「いやまあ、俺のメシ代のためだし。ところでなんでそんな怒ってんの?」
「アンタに関係ないでしょ。」
そりゃそうだと思いながら、小柄な女性に見覚えがあることと思い出した。
「もしかして、お前、暁か。」
女性はえっと驚いた顔をして、イツジをじっと見る。
「アンタ、大日向?」
「当たり。」
大日向イツジは笑って頷いた。




