act 3 朝食とマッスル
目覚めて歯磨きをしながらベランダに出る。
Tシャツの隙間に手を入れ腹を掻く。
乱立するビル群、間から昇る太陽が目に染みる。
能力者として亡者と戦う立場になって、衣食住が保証される事になった。
死ぬリスクが増える代わりに生き延びる手立てをもらった。
亡者が現れてから生きている人間が活動できる土地は著しく減った。
生産活動にも支障をきたし、このままいくと貨幣価値が無くなりそうだ。
加速するインフレーションに皆、疲弊しながら生きている。
そんな中、自分は今暮らしていくには十分な金をもらい、寮という形で住まいと食事は政府から提供されている。
「ラッキーじゃん。」
ボソリと呟く。
朝食を摂りに1階に降りる。
50人ほど入る食堂は賑やかだ。
行列に並び、食事の乗ったトレイを受け取る。
空いている席を探していると声をかけられる。
「おう、イツジ、こっちこいよ。」
振り返ると、筋肉隆々の大男がいた。
「おう。」
返事をして大男の隣に座る。
今日の朝食は、パン、スープ、サラダ、ベーコンエッグ。
飲み物は数種類の中からセルフで自分で入れてきた。
今日はオレンジジュース。
食事を始めたイツジを見ながら大男は話し出す。
「こないだB地区で出張った奴らから聞いたんだがな、お前知ってるか?喋る亡者がいたってやつ。」
咀嚼をしながら頷くとオレンジジュースを口に含む。
「『オマエもコッチ側に来いよ。』って言われたってやつか?俺も聞いた。」
「それそれ。言われたやつがビビりすぎて喋りかけてきた亡者を瞬殺しちまって、会話の続きは出来てないみたいだな。」
「まあ、これまで喋ってる亡者なんてみたことねえよ。話しかけられた挙げ句セリフがホラーじゃん。俺も出会ったら瞬殺コース。」
ベーコンエッグをそのままパンの上において齧りつく。
美味い。
「喋る知能が残ってる奴だったのか、喋る知能を持った奴だったのか。わかんねえけどな。」
大男は腕組みしながら考えている。
「何でもないことならいいんだけどな。」
「ああ、そうだな。」
「気になるんだな、お前。」
「ちょっとな。もしものことを考えだしたらキリがねえけど。」
「どんなこと、考えてんだ?」
大男はためらいがちに話す。
「喋れるってことは意思疎通が出来るってことだろ?生きてる、死んでるの境界線超えてきてるよな。そういう奴が増えてくるとしたら、ヤバくないか?」
「ヤバいとは?」
「こっそり生きてる人間のフリされたら見分けつかなくならねえか?」
「うーん、今のところ見た目がアレだからな、奴ら。動きも人間やめてるし。でも、もし見た目の見分けが付かねえときはやべえよな。」
ちょっと自分もそう思ってた。
イツジは大男に共感する。
「これから先、そういう亡者に会わねえことを祈るだけだな。」
大男がそう言い、席を立つ。
「そうだな。祈っとくぜ。じゃあ、次合うときは2日後、C地区で。またな、マッスル。」
大男は笑顔で、おお、と言い、去っていく。
あいつの名前を聞いたことあったけど、いつの間にかマッスルという愛称で定着してしまった。
あいつも気にしてないみたいだから、いいか、とイツジはトレイを返却しながら食堂を出た。




