── 第二章・反省会と親睦会 ──**
太鼓の音が止んだのは、すっかり日が傾いた頃だった。
汗を拭いながら畳の上に座り込むと、どっと疲れが全身を包む。
咲良先輩が、布の片付けを終えると全員を呼び集めた。
机を囲んで、全員で正座する。
「お疲れさま。
じゃあ、今日の練習の反省を共有しよう。」
咲良先輩の声はいつも通り穏やかだけど、ちゃんと全員の顔を見ている。
まずは美琴先輩が口火を切った。
「私は、太鼓のリズムに自分の息が合わなくなると、線が浮くなって思った。
もっと体幹鍛えるわー。あ、楓ちゃん、次リズム指導よろしく!」
楓がすぐに頷く。
「おっけー! 私も大地を見てて思ったけど、男子は力が強い分、最後にブレやすい。
踏ん張りを意識しよう!」
大地は素直に頭を掻いて、
「……すんません。もっと腰入れます……!」
と、低い声で小さく笑った。
詩織は緊張しながら、小さく手を挙げた。
「わ、私……最後の『一』で、まだ線が掠れるのが気になります。
肩が固くなるから……もっとリラックスできるように頑張りたいです……!」
咲良先輩が、にっこり微笑んだ。
「うん、すごくいい。掠れた線も大事だけど、まずは詩織ちゃんの思いが線に乗ることが大事。
大丈夫、ちゃんと強くなってるよ。」
詩織は思わず頬が緩んだ。
親睦会・お菓子タイム
反省会が一通り終わると、楓が急に立ち上がって、部室の隅から大きな紙袋を引っ張り出した。
「さあ! 真面目な話はここまで!
親睦会のお時間でーす! 今日は差し入れがあるのだー!」
袋の中から出てきたのは、コンビニのお菓子が山ほど。
「どーん! ドーナツにポッキーにプリンにラムネ!
ほらほら、咲良先輩! 甘いもん食べて元気出してください!」
咲良は苦笑しながらも、嬉しそうにプリンを手に取る。
美琴がプリンの蓋を器用に剥いて、咲良に差し出す。
「部長にはカラメル多めを献上いたします〜!
ほら、詩織ちゃんも遠慮しないで食べて食べて!」
詩織はそっとドーナツを一つ取り、小さくかじった。
甘さが舌に広がって、体中の疲れがふわっと溶けていく。
大地がラムネの瓶を振りながら、ぼそっと呟く。
「……なんか、こういうの……いいっすね。」
楓がすぐに乗っかる。
「だろー? 練習でガチガチになった後は甘いもんが最高なんだって!
詩織ちゃん、これが書道部の掟だよ!」
笑い声が、夜の部室にじんわり響いていく。
墨の匂いと、和太鼓の残響と、甘いお菓子の香り。
全部が混ざり合って、この部室だけの小さな世界を作っていた。






