── 第七章・開幕の桜嵐 ──**
文化祭当日の朝。
校門には色とりどりののぼり旗、教室の窓からは音楽と笑い声が漏れ聞こえる。
書道部の展示教室も、人の流れが途切れることなく続いていた。
壁一面には、部員それぞれの『初夏の課題作品』と、昨年度の力作たちがずらりと並ぶ。
大布パフォーマンスで使わない練習作も展示され、墨の匂いと紙の静かな迫力が来場者を魅了していた。
詩織は展示教室の入り口に立ち、来場者を迎えていた。
「いらっしゃいませ! 書道部の展示です!」
小さな子どもを連れた親子連れや、同級生たちが次々に足を止める。
奥のコーナーには、書道体験ブースが用意されていた。
低い机に、半紙と筆、そして『一文字チャレンジ』の見本が並ぶ。
美琴が小学生の子どもたちに笑顔で説明する。
「好きな漢字一文字を書いてみてね!
お姉ちゃんたちがアドバイスするよ〜!」
横では楓が墨をすり、小さな子に優しく筆を渡す。
大地は体験コーナーで墨がこぼれないように細かくフォローしながら、
たまに太鼓のリズムを子どもたちに見せて、人気を集めていた。
咲良は教室の後ろから、穏やかな顔でその様子を見つめていた。
右手はまだ包帯の下で痛むけれど、心は誰よりも晴れやかだった。
昼前になると、体育館の放送が鳴り響く。
「書道部パフォーマンス『桜嵐』は、このあと13時より体育館にて上演です!」
校内がざわめく。
展示を見ていた人々も、足早に体育館へ向かい始める。
詩織は一度深呼吸をした。
隣にいた咲良が、そっと背中を押す。
「行こう、詩織。
君の線で、嵐を起こそう。」
仲間たちは展示教室を任せられる後輩に引き継ぎ、
太鼓を抱え、大筆を手に、舞台へ向かった。
展示教室には、まだ詩織たちが書いた『風薫』や『陽炎』が静かに並んでいる。
その全てが、いま舞台で生きる瞬間を待っていた。