── 第四章・新たな決意 ──**
夜の部室には、リハーサルを終えたばかりの疲労感と、静かな熱気が漂っていた。
テーブルを囲んで座る部員たち。
机の上には、演目の構成表と、リハーサルで撮った動画が再生されている。
美琴が一時停止ボタンを押して、ため息をついた。
「……布がめくれたのは、私と楓の固定が甘かったせい。
詩織ちゃんが悪いんじゃない。ごめんね。」
楓もすぐに頭を下げる。
「太鼓のリズムを聴かせるために、布を薄くしたのが裏目に出た。
次からは布の縁をテープで二重に固定する。」
詩織は小さく首を振った。
「先輩たちのせいじゃないです……
私が……もっと冷静に踏み込みを調整できてたら……。」
大地が動画を巻き戻し、リモコンを置いて言った。
「詩織先輩、線はすごく良かったです。
筆の入りも最後の跳ねも、俺は好きでした。」
楓が微笑む。
「大地が褒めるの珍しい〜。けど同感!
今の線はもう、咲良の線に負けてないよ。」
咲良は部員たちのやり取りを、少し離れた席から静かに見ていた。
右手には、氷嚢が添えられている。
咲良はゆっくり口を開いた。
「みんな……今日は本当にありがとう。
ごめんね、私がちゃんと伝えなかったせいで……。」
詩織が咲良を見つめ、真っ直ぐに言った。
「もう謝らないでください。
咲良先輩が書けない分、私が書きます。
だけど、先輩は……横でちゃんと見ていてください。」
咲良の目がほんの少し潤む。
「……うん。私の代わりじゃなくて、
詩織の線を、みんなで完成させよう。」
美琴が手をパンと打つ。
「じゃあ決まり!
地域文化祭までの時間は少ないけど――
今からやれること全部詰めよう!」
楓が構成表をめくって提案する。
「まず詩織ちゃんが布に慣れる練習を増やす。
咲良は隣で構成を整理して、私たちが全体のリズムを調整する。」
大地が太鼓スティックを握って呟く。
「俺の太鼓も詩織先輩の動きに合わせます。
必ず合わせます。」
不思議だった。
誰も不安を口にしない。
みんなの瞳には、ただ前を向く光だけがあった。
咲良が、小さな声で、でもはっきりと言った。
「必ず最高の『桜嵐』を見せよう。
誰にも、私たちにしかできない『嵐』を。」