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桜嵐  作者: 南蛇井
10/22

── 第三章・嵐を起こす準備 ──**

六月の終わり、梅雨の雨音が部室の障子を打つ中――

 書道部は、地域文化祭と校内文化発表に向けて、本格的な準備を始めていた。


 部室の中央には、今年のパフォーマンス演目の案が大きな模造紙に書き込まれている。

 『桜嵐』――

 テーマは「新たな季節を呼ぶ嵐」。

 咲良が黒板の前に立ち、真剣な表情でメンバーを見渡した。


 「地域文化祭は外の広場。風も人も多い。

 校内発表は体育館。音響も違う。

 だから演目を微調整して、両方に合わせる必要があるの。」


 美琴がすかさず手を挙げる。


 「広場だと太鼓の音が流れやすいから、隊形をコンパクトにしたほうがいいかも!

 舞台演出より迫力の線を強調しよう!」


 楓が演目案を指でなぞりながら頷く。


 「なら、前半の『風』は音で惹きつけて、後半の『嵐』で一気に書き切る。

 それで勝負しよう!」


 咲良はふっと微笑み、詩織に視線を向けた。


 「詩織ちゃんの役割は大事だよ。

 『嵐』の一文字を一番奥で書いてもらう。

 みんなの動きが詩織ちゃんの線を引き立てるから。」


 詩織は驚いて目を見開いた。


 「わ、私が……? だ、大丈夫でしょうか……」


 美琴がすぐに肩をポンと叩いた。


 「大丈夫! 今の詩織ちゃんならできる!

 それに、失敗しても私たちが全部盛り上げるから!」


 大地が太鼓を指で叩きながら、低くも力強く言った。


 「校内の発表は、音響も照明も完璧に合わせてインパクト勝負です。

 詩織先輩の線が映えるように、太鼓は俺に任せてください。」


 準備は着々と進む。

 衣装の確認、道具の修繕、墨の量や布の長さの再計算……

 放課後の書道室には、笑い声と真剣な筆音が交互に響いた。


 休憩時間、美琴がドーナツを頬張りながらつぶやく。


 「地域の人たち、びっくりしてくれるかな〜。

 去年より絶対すごいの見せたいな。」


 楓が笑う。


 「びっくりさせるんじゃなくて、感動させよう!

 嵐みたいに、心を吹き飛ばすのが目標だろ?」


 咲良は、少し離れた場所で墨をすりながら、静かに心の中で言葉を繰り返していた。


 (……今年こそ、笑顔で終わるんだ。

 みんなの線を繋いで、最高の『嵐』を――。)


嵐の準備、始まる

 窓の外の雨が止んだ頃、練習室の中は静かになっていた。

 それでも誰も立ち上がろうとしない。

 まだ、やれることが山ほどあるからだ。


 詩織が大布の上にそっと手を置いた。


 「咲良先輩……私、この『嵐』を絶対に書き切ります。」


 咲良は優しく頷いた。


 「うん。一緒に起こそう、桜嵐を。」



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