結局、横恋慕男の言い訳なのね~☆
ここにも最低男がひとり~
クリス、どうやって使ってやりましょうか☆
(bi 亡霊姫★)
ちょうどその頃ランドルフも、王からの招きを受けていた。
「お呼びでしょうか、陛下」
「ランドルフか。傍へ」
ランドルフは、訪れた王への部屋でそう言われ、恭しく進み出た。
彼らは元々旧知の仲だ。ともに稽古に励んだ。武人として全てを王に捧げるつもりでいたし、その心にずっと変わりはないと思っていた。
けれど――王の寵姫として現れた彼女を目にしたその瞬間、自分の何かが変わってしまったのだ。
その歪をずっと放置し、見ないふりをして、そして取り返しがつかない事態を招いた。
自らの愚かさを痛感している彼には、王の信頼は精神を苛むものだった。
国境の戦線へと飛ばされたことを、むしろ救いと思っていた。
けれど、遠い国境で戦っている間にも歯車は回り続けて、そして今がある。
「……お前に頼みたいことがある」
ヘルヴァルトは虚ろに天井を見上げる。
その言葉は王としてではなく、素の口調に近いものだった。
昔、兄弟のように過ごしていた頃を思わせた。
「……俺はもう長くない。そうでなくとも王子が生まれたなら、あの女に間違いなく殺されるだろうな」
「陛下、そのような……」
「分かりきったことだ。この先王宮で何かがあれば、……その時は、お前がフィオラを連れて逃げてくれ」
「…………」
息が詰まった。
ヴェルカ公爵夫人の手引に従い王を裏切った夜は、もう両手の指では足りない。
それを王が察していることにも気づいている。
分かっていて尚、誰もこの歪みを断ち切れなかった。
「フィオラは哀れな女だ。今になって、改めてそう思う」
「陛下、私は……」
弁明しようとした彼を遮り、「もう良いのだ」と呟く顔は、老人のように疲れ果てていた。
「……だが、一つだけ。シルビア嬢についてどう思っているのだ」
「……どれだけ詫びても足りないほどの仕打ちをしてしまいました」
グラフィナ伯爵家に嫁いだシルビアは、元はベルサード伯爵家の令嬢だ。
そして、ランドルフの許嫁でもあった。
そしてこの縁組は、決して簡単にまとまったものではなかった。
ランドルフは元々、シルビアに恋をしていた。
下級貴族出身であった彼にとって、伯爵令嬢のシルビアは文字通り高嶺の花であったが、それでも諦めずに精進し続けた。
軍属に入り、国境紛争において目覚ましい軍功を上げ、各方面を拝み倒し、ライエラ侯爵の仲立ちもあってどうにか伯爵家に縁組を了承させたのである。
花嫁修業も兼ねて、帝国へ行儀見習いに行った彼女を、ランドルフは待つつもりでいた。
けれどある日、王の寵姫として宮廷に上がったフィオラに出会って、そして――
帰国した彼女を待っていたのは、かつての婚約者ではなかった。
寵姫フィオラに心奪われた男だった。
「心変わりしたならしたで、さっさと気持ちを切り替えるか、破談にしてやればよかったものを……」
「……返す言葉もございません。全て私の罪です」
そんな単純な最適解が、その時は分からなかったのだ。
婚礼について促されても、婚約者が不安げに話しかけてきても、是とも否ともつかない曖昧な物言いで逃げ続け、婚姻について明言しなかった。
それはランドルフ自身、本心を自覚できていなかったからだったが、それが言い訳にはなるとは思っていない。
そして起こったのが、反寵姫を掲げる派閥の襲撃事件だ。
「……あの時お前は、何の躊躇いもなくフィオラの元へ走ったな」
その場には、シルビアもいたにも関わらず。
彼に身を挺して助けられたフィオラは、それを機に政敵の粛清に取り掛かった。
一方的な調査が進められ、容疑が帝国派に着せられた。
その襲撃で王の身にも危険が及ぶ可能性があったことも、有利に働いた。
これによって帝国派――現在の王妃派は衰退を余儀なくされ、寵姫派が権勢を得ることになる。
一方でランドルフは、流石に寵姫相手にそうした挙を起こしたことが問題となった。
咎めを受けるまではいかなかったが、どうしても王との関係は緊張した。
結果ライエラ侯爵が間に立ち、辺境の戦線送りで手打ちにするということになった。
そしてその裏で、シルビアの面目は丸潰れになり、破談せざるを得なくなったのだ。
ランドルフはそれについて、一切弁明せずに受け入れたらしい。
それを聴衆は潔いと身勝手に讃え、シルビアがグラフィナ伯爵家に片付いてからは忘れ去った。
適齢期は過ぎかけており、しかもそんな風聞のついた令嬢なのだから、相手探しは当然難航した。
シルビアに残されたものは、望まなかった伴侶との生活だけだった。




