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小兎走れ、あっちにそっちにホホイのホイ♪

クリスの子兎が走り回っているわ~♪

さあ、情報集めにいってらっしゃ~い☆

(by 亡霊姫★)


 王妃の侍女エデルは、王妃宮を出て歩き回っていた。

変装をし、ジディスレン風に装った彼女に誰も注目しない。


 王妃自身ならまだしも、侍女の顔など誰も記憶に留めていない。

髪型と化粧を変えて、ジディスレンのドレスを着るだけで、案外あっさり潜り込める。

更に言えば、エデルは昔の交流関係から、それなりにジディスレン式の所作にも通じている。

余程大事な場所に近づかない限り、ジディスレン人たちと同化することができた。


 王妃といえば帝国、王妃派といえば帝国服。

王妃が宮廷人たちに植え付けたそんな認識が作り出した盲点だった。

その盲点を利用して行っているのは、勿論情報収集である。


(冬が近いからかしら。帝国服を着てくれる人も、段々増えてるわ……

それに、ライエラ侯爵夫人の新型ドレスも……)


 例の新型ドレスは、個人的に悪くないと思っている。

この国の猛暑に合うのは、やはりああいう風に軽さや風通しを工夫したものだろう。


 アーゼリット侯爵夫人たちが、その旨を伝えるところも見た。

王妃も、それほど悪い印象は持たなかったようだ。

試しにとドレスを着させられた侍女たちを、穏やかに微笑んだ目で見守っていた。


 王妃自身が身につけることは、決してなかったが。

その頑なさも、故なきことではないとエデルは思う。


(王妃陛下は、まだ十五でいらっしゃるのよ。

それも人生の半分以上を監獄に入れられて過ごした……

そんな方に、あのように接するのがジディスレンの流儀なのかしら)


 四歳から十二歳まで監獄に囚われ続けた姫君。

その悲惨さと重さを軽んじている者がここには多すぎる。

挙げ句亡命の途中、襲われて馬車ごと海に落とされ、一行の中で助かったのはあの主人だけだったそうだ。


 先日、毒見役が倒れた時だってそうだ。王妃は全く動じなかった。目を向けさえしなかった。

「そう。では、次を用意しなさい」と平静な声で言っただけだ。

そうならざるを得なかったほどの半生の過酷さに、誰も目を向けていない。


(それでも、そんなことをおくびにも出さず、帝国のためにと献身して下さっているのに――ここの人たちと来たら!)


 王妃が春先に見せた涙が忘れられない。

あの時の王妃は弱々しい少女そのものだった。

あの頃からずっと、王妃はエデルたち帝国の侍女には思いやり深い。

だからこそ、陰湿だの冷徹だのと勝手に言い立てる宮廷人たちには腹が立つ。


 今王妃は帝国で自らを鎧い、冷遇を乗り越えて立場を固めつつある。

その姿勢が多少強いものだとしても、仕方がないではないか。

そうさせるほど追い込んだのはこの国の者たちだ。

最初に王妃を拒絶し、傷つけたのは彼らの方だ――そんな気持ちが、エデルの中にはあった。


 だからこそ、あの騎士とのことも応援したい気持ちだった。

王妃にとっては、信じられる相手自体が希少だろうから。

けれど最近は王妃宮で姿を見かけることも減って、それ自体は警備の都合上仕方ないが、王妃の心が乱れないだろうかと案じていた。


(そういえば――……)


 思い出したのはヴァリナ夫人のことだった。

王妃の一挙一動を咎め、不躾な値踏みを繰り返したあの無礼な夫人を、最近見かけない。

どうしたのだろうか――だが、エデルの思索はそこで打ち切られた。


(え?今……)


 王宮の中では人気の少ない、寂れた場所だった。

角の向こうに、見覚えのある顔を見た気がした。

最近会った顔ではない。もっと、ずっと昔の――


「……シルビア?」


 追いかけて、そう声を掛けたエデルに、彼女は驚きの表情を浮かべた。

エデルは無邪気な喜びの表情を浮かべ、


「久しぶりね!ジディスレンに戻ったと聞いていたけれど、今はどうしているの?

ここ数年手紙も来ないと聞いていたし、ラザリウス侯爵家の方々も心配して……」


「エデル、さま……」


 そこでエデルは、相手が悲しげに涙を溜めているのに気がついた。

それはシルビアの瞳から、数秒も耐えられずに零れていった。


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