第四話 お前たちはどうするのかしら?①
王妃が去った庭は、「邪魔者がいなくなった」と言わんばかりに盛り上がった。
寵姫に近しい貴族がそう演出していた。
だが、それに追随しない者もいた。
「ふん、相変わらずの女狐ぶりだったな」
園遊会がお開きになった後。
アーゼリット侯爵は王宮を辞去し、館に戻ってからそう吐き捨てた。
その周りにいる者たちも同意見のようだ。
貴族たちの間では、時に派閥によって、時に利害によって、時に血筋によって、交友関係が形成される。
その集団の要となっていたのは帝国に親しい者たちであった。
中心にいるのはアーゼリット侯爵だ。
鑿で削ったような鋭い面差しと視線、そして一分の隙もない身なりと姿勢。
ジディスレン貴族としては現在少数派の、親帝国派の筆頭として知られている。
他の者達も、大なり小なりエヴァルス帝国に阿る立場にあった。
彼らは慣れた様子で客間に入り、あの場では言えなかった本音を口々に吐き出していく。
「女狐?いえいえ、猿でございましょう。とんだ猿芝居でした」
「全くですな。しかし……皇女殿下の輿入れにも関わらず、ご寵愛に変化はないと……少々困りましたな」
人の良さげな顔つきをしたヴァルネート侯爵が、そこでため息をつく。
女狐の色香に惑わされていたとしても、一時的なこと。
皇女との縁談で目を覚まし、立場というものを自覚してくれる。
一応、そんな淡い期待も抱いていたのだが、それも虚しいものだったようだ。
寵姫フィオラの台頭によって、彼らは弾圧を受け苦境に立たされた。
左遷と更迭の嵐によって多くが王宮を追われ、今ここにいるのはその時の激流を生き延びた者たちだ。
己の家門を背負う者としてそれぞれ思惑や利害はあれど、かの寵姫への嫌忌は、全員に共通するところだった。
愛妾なら愛妾として大人しくしていれば、まだ可愛げがあるものを。
王妃気取りで政に口を挟み、国民の人気取りに精を出す有様だ。
おまけにお気に入りを好き勝手に引き立てて、要職を与える始末。
その流れで成り上がった新興貴族の専横ときたら、目に余るものがあった。
会議の場でも王の隣に居座って賢しらに文句をつけ、虫酸が走るとはこのことだった。