一体どんな因業を背負えば、ここまで女運が無くなるのかしら……
ちょっとちょっと、クリス!
みんな顔面蒼白よ~☆
(by亡霊姫★)
一瞬、誰もが息を止め、辺りは静まり返った。
(――――!!)
動揺を、表に出さないのが精一杯だった。
「陛下……!」
その呼びかけに、王は視線を背けた。
その形相は、あらゆる激情がせめぎ合っているような凄まじいものだった。
それだけで全てを察する。嘘をつかれたのだ。
今まで彼が彼女に嘘を仕掛けたことなどなかったのに。こともあろうに、こんな大切なことを――
動揺から立ち直る暇も与えず、王妃の追撃は続く。
王妃は一度だけ王を見やった。その目は最早侮蔑を隠そうともしなかった。
「皇帝陛下の御名の元行われた婚礼に、不備などあろうはずもございません。
相手が望まなくとも、それこそ半死人だったとしても、全ては完璧に遂行されますわ。
……そのようなことも分からずに帝国に歯向かおうとしただなんて、お可哀想な方――無垢ゆえの反逆。
どれほどお辛かったことでしょう」
そこで王妃は一度言葉を切り、くすくすと笑った。
少女らしい笑い声が、凍てついた空気に溶けていく。
「……ああ、例えです。陛下が望んでいなかったということではありませんのよ?
皇宮で国王陛下はわたくしに、それはそれは優しくして下さいました。
シェルベット伯爵夫人には、知る由もないことでしょうけれど。
罪悪感がおありだったのか、この国に来てからは遠ざけられてばかりでしたが……
よろしゅうございましたね。伯爵夫人はそれほどに、愛されておいででしたのよ?
そしてわたくしも、この子がいたからこそ、ここでの日々に耐えられましたの。
今はただ、健やかな誕生を待つばかりですわ」
王妃の言葉には、悲壮感も被害者意識も微塵もない。
ただただ清らかで、幸福そうにすら見える。
その清廉さが、フィオラにとっては拷問になる。
「……っ」
歯軋りと、息を詰める音が隣から聞こえた。
王は何かを言おうとして、それでも言葉が出ずに、すぐに過呼吸に陥った。
蒼白な顔で不規則な息をする王を支えながら、あまりの屈辱に叫びださないよう耐えるのが精一杯だった。
掌に爪を立て、血の滲むほど握りしめる。その痛みで辛うじて体裁を保つ。
ふざけるな、と叫び出したい心境だった。
妊娠の兆しなど、それらしき情報など、これまで一つも入ってこなかった。
初夜を行わず、子も宿さず、それ故に年単位の長期的な観点から布石を打っていると、その想定で渡り合ってきたのだ。
それが、子供ができていたなどとなれば、全てがひっくり返る。
ましてそれが健康な男児であったなら、それで王手だ。
「――それは確かなことなのですか?もしそうならば、何故分かり次第発表なさらなかったのですか?」
「……どうかお言葉にはご注意を。そのような物言い、王妃陛下に対する不敬と捉えられますぞ」
「構いません、宰相。……それについてはお詫びしましょう。
けれどこちらにも、色々と、気がかりがございましたもので」
明らかな含みを持たせた言葉に、堪えきれずに顔が引き攣った。
それを機に、一斉に周りがざわめき出す。
誰もが王妃を見ていた。
その、夥しい装飾をまとう優雅なドレスに緩やかに覆われた――よくよく見れば、明らかに膨らんだ腹を見ていた。
そんな空気の中でも、王妃は一瞬とてフィオラから目を離さなかった。
扇を広げたままに、嬲るように目を細め、最後通牒を叩きつけた。
「ですから……ねえシェルベット伯爵夫人、貴女のお役目はご気分の優れぬ陛下をお慰めすることであって、このような場においでになることではありませんわ――そうしたことは王妃の務めですもの。
このジディスレンで唯一人、陛下と並び立つことを認められ、国母として後継者を齎す者の責務です。
――これで、お分かり頂けまして?」




