きゃははははあ!どうするのどうしちゃう~?
王の愛人と、その取り巻きたちがじたばたしてる~
どこまで保つか見物ね☆
(by 亡霊姫★)
幼い頃、世界は地獄に見えていた。
生家は、帝国出身の祖母が君臨する地獄だった。
日夜悪魔の子だと打ち据えられ、酷使され。
母は一応病死とされたが、殺されたも同然だった。
そしてあの気の毒な片割れも――真夏に水も休憩も与えられず庭に立たされ、彼女が駆けつけた時には息が止まっていた。
何もかも、帝国の下らない迷信のせいだ。
あの祖母こそ悪魔だった。
けれどあの悪魔は、最後まで呪詛を吐き続け、己の正当性を疑いもしなかった。
フィオラが報いを与えたその瞬間でさえも――
「……嫌な夢だわ」
目が覚めて、フィオラは最初にそう呟いた。
倦怠感が強く、全身に疲れが残っている気がする。
夏頃からずっと、フィオラは多忙な日常に追われていた。
臥せることが増えた王の代わりに采配を振るっているためだ。
身の程知らずと言われようが、それは彼女にとって絶対にしなければならないことだった。
味方を増やす人脈形成も、そして王妃に靡こうとする味方の慰留も。
鏡に向き合った。自分はまだ美しい。まだ戦える。
そう言い聞かせながら、身嗜みを整える。
鏡に映るのはいつもと変わらない薔薇のような美女の姿だ。
あの子も生きていたらこんな風になったのだろうかと一瞬考え、首を振った。
今日は朝から、人と会う予定があった。
やって来たヴェルカ公爵夫人は、憔悴しきった顔色だった。
普段の華やかさは鳴りを潜め、暗い憂愁の影が漂っている。
「申し訳ありません……」
「良いのよ、あれでは仕方がないわ」
寵姫に過ぎないフィオラにとって、権力の根拠となるのは国王だけだ。
寵姫派も、友好的な中立派も、国王の名があればこそフィオラの話に耳を傾ける。
国王の権威が揺らげば、それら全てが崩壊する。
後ろ盾のない、ただのフィオラに従ってくれる者など、この夫人や国王の侍従くらいであろう。
王妃は帝国の傲慢な客でいなければいけないのだ。
ジディスレン王宮の一員になるなどと、あってはならない。
民心を王妃から遠ざけるための工作は幾つも行っており、それなりの成果を上げている。
「最近ではハルバードに、帝国貴族との縁談話が持ち上がっているようで……そうなれば、いよいよ迂闊に手出しはできなくなります」
「破棄させるしかないわね。あの老婆も、遠くない内に死ぬでしょう。
それからでも間に合うわ。いいえ、間に合わせる」
「どうか、お助けを……このままでは、息子が神殿に入れられてしまいます。
考えるのも悍ましい……!」
「分かっているわ。対処を話し合いましょう」
あの王妃は、並大抵の工作では潰れまい。
それはもう分かり切っている。
フィオラは長期戦を覚悟する心づもりでいた。
そのための打ち合わせをしていると、
「フィオラ様。少しよろしいでしょうか?」
「カラフ。お疲れ様」
やってきた人物の声に、フィオラは応じる。
彼女に女を、愛を求めてこない数少ない男の味方であるだけに、そこには独特の親しみがあった。
(何より、同じ憎しみを持っている。だから、一番大事なことも任せられた)
カラフは王の傍に控える侍従として、身辺の諸事を一手に握っている。
王を操るためには、これ以上ない配置だった。
これによって挟み撃ちのようにして、王を操ることができた。
就寝時や食事時に薬を呑ませようが、問題ない。
王の隣から国政について助言をしようが、問題ない。
彼女は、彼らは、王妃と不仲な王を案じ、心を慰めているだけなのだから。
「……今日も陛下のご容態は思わしくなく……朝夜、いつも苦しそうになさっていますし、ふとした時に手足が痙攣しているのを見かけます。
ご判断も危うくなってきたご様子で……」
「……そう。とうとう副作用が出てきたのかしらね……」
王を籠絡するために打った策の一つ。
ヴェルカ公爵夫人も使っていたものだった。
その公爵夫人が敗れたことは、フィオラの鎧が一部剥がされたようなものだった。
寵姫派内部の綻びは一気に肥大化していっている。
「……明後日、王妃が会議に出てくるとの噂を聞きました。本当なのでしょうか?」
「おそらくは。わざわざ噂を撒いた上で出てくるんですもの、余程自信があるのでしょう」
ここが正念場だろう。公爵家での勝利の追い風を受けて、一気に畳み掛けてくるはずだった。




