ストレスはお肌の大敵ってね☆きゃっは!!
あらあ、あんたたち、クリスに遊ばれていたこと、今頃気づいたの~?
(by亡霊姫★)
「……ですから、ここのところ王妃の傍にいるのが恐ろしいのです……あの方が今にも、微笑んで死を命じてくるような心地すらして」
「気の所為ではなくって?ヨゼフ」
そんなことで一々泣きついてくるな――と言いたいのを、フィオラはどうにか我慢した。
眼前にいるのはヨゼフである。
どうしても直に報告したいと言うから、わざわざ時間を裂いたというのに。
王妃宮で起こった毒虫の一件は彼女の耳にも届いていた。
寵姫派と見做されている通訳が、この時期に自分の元へ駆け戻れば客観的にどう見られるか、そんなことも想像できないのか。
それに値する情報だというのならともかく――
始まりは王妃の一声だったそうだ。
例の如く味方の貴婦人を集めて談笑していたところ、いきなりヨゼフに矛先を向けてきた。
「……このヨゼフはね、大変面白い通訳ですの」
話題が途切れた時に王妃が投げかけた言葉を切っ掛けに、彼は槍玉に上げられた。
「例えば、こちらに来たばかりの頃……わたくしがある方のお衣装について『解放的で素敵』と言ったら、『下品で目障りだ』と訳してくれて。
想像力の豊かさ、称賛に値しますわ。
通訳よりも作詞家に向いておられるのではなくて?」
そんな王妃の意を察して、貴婦人たちも口々に糾弾を始めた。
初期の頃に耳にした「訳」を逐一あげつらい、王妃に真意を確認して、笑い合う。
驚くべきことに、王妃は細部まで全てを記憶していた。
「……まあまあ、通訳は大変繊細な作業だとは思いますけれど」
「ですが誤訳というより、これは最早想像と言うべきでは?」
「きっと王妃陛下のお美しさにあてられて、言語機能がおかしくなってしまわれたのね。
まだお若いのにお気の毒」
くすくすと笑い合う、嘲りの風景が目に浮かぶようだ。
何匹もの猫に甚振られる鼠のような光景だっただろう。
「……疲れているのでしたら、通訳から降りて下さっても構いませんわ。
思えば春からずっとでしたし、休養も必要でしょう」
「いいえ、そのような……!
ただ、とてもこのまま、王妃宮に戻れそうにないのです。
どうかお情けを……」
手を伸ばされて、フィオラは一瞬肩を強張らせ、身を翻した。
「この後、陛下の看病に参りますの。ですから、またいづれ」
成果さえ出せるのなら、体でも何でも与えてやる。
ランドルフを思い出しそうになるのを堪えて嫣然と笑う。
そしてさっさと踵を返し、歩き出した先で出くわしたのはグラフィナ伯爵夫人だった。
「あらあら、ご機嫌よう!」
豊満な肉を揺らし、伯爵夫人は品のない笑い声を上げた。
最近は、腹心のヴェルカ公爵夫人が家のことで手一杯なので、彼女がその位置につくことが増えていた。
といっても何か有益な成果を上げるでもなく、こうして一方的に喋りたいことを捲し立てるだけだ。
相槌を打っていればそれで良いとは言え、打てば響く公爵夫人の支えが懐かしい。
「……ご機嫌よう、グラフィナ伯爵夫人」
「ええ!最近は暑さも落ち着いて何よりですが、あの嫁は変わらず不出来なままですわ。
いつまでも帝国かぶれが抜けませんもの!
何よりも……あの女の実家、最近王妃派に接近しているようですの。
今更帝国に媚を売りたいというのかしら、全く浅ましいことですわ」
「……放っておきなさい」
シルビアや、その実家ベルサード伯爵家に関しては、フィオラ自身の負い目もあって、かねてから扱いにくく感じていた。
だから、寝返るというのならそれで良い。
「フィオラ様におかれましても、ここ最近ご心労が多いことでしょうね。
ランドルフ様との逢瀬は、変わらずにお続けなのかしら?」
「…………っ」
そこに悪意は感じられず、ただ無神経なだけだった。
けれど、思いがけず神経を逆撫でされた。
ランドルフとのことは、お前が立ち入って良いことではない――そんな言葉を噛み殺す。
自分とその周辺とを制御できなくなっていったのは、あの時からだった。
恋。夢想したこともなかったそんなものが、この身に起こったせいで。
初めて自ら望んで愛した、恋人の顔を思い出す。
けれど耳の奥では、ヨゼフが最後に呟いた言葉が木霊していた。
「王妃陛下は、この頃酷く…………本当に恐ろしい目をなさるのです。
いえ、多分気づかなかっただけで、あの方は始めから――」




