情報収集、まだまだよ♡
クリスに圧迫されても愛妾の情報を出さないなんて、神官のくせになかなか手強いわね☆
クリス、がんばれ~!
(by亡霊姫)
王妃の問いかけに、神官は曖昧な表情で視線を巡らした。
「……さて、ご本人が神殿にいらしたことはないと思いますが……」
「……シェルベット伯爵夫人について。
知っていることだけでいいので、教えてくれないからしら?
確か、伯爵夫人ご自身は、下級貴族の出身であられるのよね?
十年ほど前に王宮に出仕して、国王陛下に見初められたと聞きました」
「ええ……そのため最初の頃は、宮廷でのお立場も危ういものだったようで……」
噂はそこら中に飛び交っている。
フィオラはある下級貴族の傍系の、更に妾腹の生まれだったという。
本来貴族社会に参入できるはずもなく、直系の一族の召使いなり、政略のため嫁ぐなりで一生を終えるはずだった。
実際、幼い頃は祖母に当たる夫人の下働きとして仕えていたらしい。
それが王太子に見初められて、一発逆転だ。
新王は即位してすぐ、周りの反対を押し切って、シェルベット伯爵夫人の位を与えて側室とした。
そればかりか、正妃さながらに国王の隣から政に口を出すようになったのだ。
元々フィオラは、その出自から一般の国民の支持が高く、その提唱や進言も、国民に寄りそうものが多かった。
そんな彼女に傾倒して、王が従来の姿勢を変えてしまうことも多々あった。
王は帝国嫌いの寵姫に操られ、帝国への反抗を続けた。
その結果叩きつけられたのがいくつかの制裁措置、そして皇女クリスベルタとの縁談であった。
「――そこまでご存知なのでしたら、私が付け加えることもないかと存じますが……」
「……あの方の祖母君が、熱心に神殿に通っていらしたと、耳に挟みましたの。
それについて、お願いできません?
どんな些細なことでも良いですから」
信者の秘密に当たるため、抵抗があるのだろう。
神官は言葉を濁そうとしたが、無理矢理聞き出したところによると、やはり家庭環境は劣悪なものだったようだ。
「……しきりに仰っていました。
孫は、悪魔の子だと。今に災いを齎すから、対処しなければいけないのだと。
それは大層な剣幕で……」
「そのように言われるには、何か理由があるはずです。
そちらについても、お聞きになったのでしょう?お話下さいな」
「…………」
「秘密を漏らすのは苦しい?
……今の寵姫フィオラは神殿の敵ではありませんか」
「……因果や俗世の立場は関係ありません。私自身の信義の問題です」
「……それでは、説得の仕方を変えましょう。
わたくしに、話せないと?」
王妃の声が冷え込んだ。空気が途端に張り詰めた。
エヴァルスの皇族は、神の子孫とされている。
それを前提に活動している以上、神官は多くの場合、皇族相手に強く出ることができない。
それを最大限に押し出した説得だった。
最高神ラシエの末裔として、ものも言わず眼差しで強く促す。
それでも神官は首を振った。
「…………どうかお許し下さい」
「……そうですか。分かりました。
……話は変わりますが、神官長殿はいらっしゃるのかしら。
折角ですから、一度ご挨拶をしておきたかったのですが」
これは駄目そうだと考え、王妃は話題を変えた。
「先の神官長様は、皇都からの辞令が下り、王妃陛下と入れ違いになりまして……現在は空席なのです。
新たな神官長様がいらっしゃいました暁には、是非我々から改めてご挨拶申し上げとうございます」
「……以前の方というと、ロートベラール公爵家の御子息でしたよね。確か、三番目の」
パエルギロ公にも比肩する公爵位。
帝国の貴族全体の中でも一割に満たない上流であり、薄いとは言え皇家の血すら引く権門だ。
その三男と言うと、随分と若かったはずだが……大方、家柄で祭り上げられたのだろう。
その人物について聞く話で、良いものは多くなかった。
「何でも、神殿が逆風を浴びている時に遊んで回っていらしたとか?
今の王宮で神殿のことを語る方は少ないですが、少々耳に挟みましたわ」
「……それはその、何と言うか……高貴な方というのは、やはりどうしても、常人とは違ったところがおありですから」
『あらあら、上手にぼかすわね~』
この辺りで良いだろう。潮時だと判断して、王妃は扇を小さく鳴らす。
微笑んだ唇を隠し、その後は世間話に終始したのだった。




