やだぁ、化けの皮が剥がれただけだって~!
みんな涙ぐましい努力をしているわ!
貴族も国王もみんなみんな踊れ~♪
(by亡霊姫★)
公爵家の跡目争いは、一進一退の様相を見せていた。
継母に反乱を起こしたハルバードには、元々彼寄りだった家臣たちや王妃派の貴族が味方している。
しかし、公爵夫人の方も一方的な劣勢に陥ってはいない。
他ならぬ公爵が後ろ盾になっているからだ。
やはり、現家長を味方につけているというのは強いのだ。
それがたとえ、下劣な女の色香の成せる技であっても。
(一体どんな手管を使ったのやら……
まあ、あの男の有様を見ていれば、薄々想像がつかないこともないけれど)
『涙ぐましいわ、素晴らしいわ!滑稽さも、一周回れば愛らしいものなのね?』
随所で行われる帝国式の催しに、その結果に応じた贈与。
貴族同士の鍔迫り合いや探り合い、そしてヴェルカ公爵家の跡目争い。
それらは連日続き、攻防はじりじりと進んでいた。
王妃自身は報告を聞き、その功績に応じて褒美を与えるだけで、貴族の駆け引きにはほぼ関与していない。
真夏のある日の昼下がり、日の差し込む回廊を歩いていた時だった。
「……王妃陛下。少々よろしいでしょうか?」
「……何かしら?レナート」
初めて会った時から、ずっと王妃に黙々と付き従い、その行動に一切口出ししなかったレナートは、遂に王妃に声を掛けた。
目線を寄越した王妃に跪いて、嘆願の姿勢を取る。
「――どうかこれ以上、危険なことは控えては下さらないでしょうか?」
王妃は今日も今日とて、完全な帝国式の装いをしている。
その姿を仰ぎ、切々と訴える。
「数ならぬ身でございますが、ただひとり我が国にお輿入れ下さった貴方様をお助けしたいと……少しでも支えになりたいと、そう思って参りました」
「…………」
「ですが最近の王妃陛下は……まるで日に日に、知らないお方に変わっていくようで、恐ろしいのです。
まるで、生き急いででもおられるようで……」
黙って聞いていた王妃は、物憂げに目を伏せた。
その表情も一つの芸術のように完璧で、乱れのないものだった。
「……そうね。わたくしが恨みを買えば、必然的に護衛である貴方にも危険が及ぶことになりますしね」
「いいえ、私などどうでもいいのです!
ご命令とあらばどのようなことでも致します。
ですからどうか、ご無理をなさらないで頂きたいだけなのです……!」
レナートが切迫した顔で王妃の手に縋ろうとした、その時だった。
「……何事だ?」
国王がそこにいた。険しい顔で王妃を見つめている。
その側ではランドルフが付き従い、目を見開いていた。
瞬時に空気は緊張感を帯びた。
侍従として王の後ろに控えていたカラフは、とんでもないことになったと内心冷や汗をかく。
「これは国王陛下……ご機嫌麗しゅうございます」
王妃は全く取り乱す気配もなく、完璧な帝国式の挨拶を捧げた。
それに王の顔が更に歪む。
最早不快の色を隠そうともしない。
王妃の存在自体が不快であると、全身で拒んでいるようだった。
「……貴様が嫁いでから、王宮の秩序は荒れていく一方だ。
貴族たちを集めて、いかにしてこの国を滅ぼすかという算段でもしていたのか?
毎日毎日神経質に医師を呼び寄せ、挙句の果てにそのような男まで侍らせるとは……
やはり貴様は――」
王妃は扇を開き、にこりと笑った。
「国王陛下。皇宮の春を覚えておいででしょうか?」
その言葉に、王ははっきりと顔を引き攣らせた。
カラフはそれに、つい訝しんだ目を向けてしまう。
王妃は扇の奥から、金色がかった目を三日月型に緩ませる。
「――あれからまだ半年も経っておりませんのに。
日々、本当に懐かしい思いが致します。
陛下にとっても、春の夢は美しいものであったでしょうか……?
このところは、そればかりが気がかりに思われますの」
「……貴様、貴様は……」
「……そもそも、わたくしの品行を気になさるよりも、もっとずっと重要な方がいらっしゃるのではなくて?
陛下が愛するとある御方について、来たばかりのわたくしにも色々と聞こえてくるのですけれど」
王妃は、敢えて名指しはしなかった。
あからさまに首を傾げて、ランドルフをちらりと見やり、ただくすくすと笑う。
「――黙れ!貴様が立ち入るべきことではない!」
「それはそれは、失礼致しました。
ですが国王陛下、これだけはお忘れにならないで下さいね。
わたくしが帝国の医師をそばに置くのは、この国のためでもあるということ――
どのような経緯であれ、わたくしが死ねばその瞬間、皇帝陛下の慈悲は尽きますのよ」
王妃はそう告げて、優雅に立ち去った。
立ち上がったレナートも、困り顔で一瞬国王を見つめ、深々と礼をしてから去っていく。
「…………」
「――陛下。私は……」
「気にしなくて良い。王妃や、口さがない者共の言うことなど」
王の顔色は蒼白だった。体が、声が、細かく痙攣するように震えている。
「私は、お前たちを信じている。信じているから……」
それに何も返すことができず、ランドルフは瞑目した。
カラフも気まずさに息を詰める。何かが軋む音が、穏やかな昼中に響いていた。
この回については、そのうち解説回を出します。何が起きているかはその時解説しますので、しばしお待ち下さい。




