たった一枚のドレスも、魔法をかければこれこの通り~☆
クリスのドレスにワインをかけるなんて命知らずよね~
さあ、クリス、どうやって犯人をあぶり出してやろうか?
(by亡霊姫☆)
翌日の午後、王妃宮に呼び出されたアーゼリット侯爵夫人は、そこに畏れ多い品を見た。
膨大な宝石とレースと刺繍で飾られ、どれか一つだけでも一財産になるだろうドレス。
絹と金糸と宝石で構成された、伝説的な夜会服。
赤い染みを宿すそのドレスは、なおも息を呑むほどの美と高貴を湛えていた。
元が青銀色なのも相まってそれは、雪に散った血を思わせた。
「お、王妃陛下……こちらは……」
王妃はそれと同じ型の、胸元で切り替えのあるドレスをまとっていた。色は深緑だ。
胸の下からまっすぐに布が落ちる形で、連続した刺繍の美しさ、糸の豪奢さをこれでもかと誇示している。
肩からは同色の長い布が何本か胸の前に下がり、後方にも長く尾を引く。
そして変わらず、帝国風の優美な扇を手にしていた。
夏に入ってから、王妃はほとんどいつもこの型のドレスで通していた。
はっきり言って、これは帝国の冬でも通用するような重装だ。
到底南国であるジディスレンの、それも夏に耐えうる服ではない。
だというのに、その額に汗一つ浮くことはなく、王妃の姿は敵味方を問わず震えるほどの畏怖を引き起こした。
慄く侯爵夫人を優しく見つめ、王妃は笑った。
柔らかく、けれど一切の情を交えずに。
その日も朝から高温が続いていたのに、それだけで冷気が漂ったように感じた。
「こちら、もう着られませんので……
よろしければ、あなたに差し上げますわ。
汚れてしまったもので申し訳ないのですけれど」
「――――……」
侯爵夫人は一瞬で悟った。それが「恩賞」であり「命令」であることを。
調べよ。突き止めよ。報いを与えよ。
この美しい衣装はそのために、王妃が投じた駒なのだと。
「――畏れ多く、光栄にございます」
これは命令であると同時に、絶対的な信任であるのだ。
王妃に腹心として名指しされたことを、彼女は感じた。
言葉ではそう口にしたが、侯爵夫人の手はわずかに震えていた。
決して失敗するわけにはいかない。
ここで失態を見せれば、王妃が自分を信頼することは二度と無いだろう。
このドレスは、誰にも見せられぬ。
身に纏うなど、許されようはずもない。
ただ静かに、厳粛に家の奥深くに封じ、忠義の証とするしかない。
侯爵夫人は覚悟を決め、それを受け取った。
調査はそれから一月弱、アーゼリット侯爵家の総力を上げて行われた。
半月が経った頃、件の下手人が王宮勤めのある侍女であると特定され――それと同時に、死体で見つかった。
その女の亡骸の傍から、ヴェルカ公爵家の紋章入りのハンカチが見つかったのである。




