かくして、怪獣大戦争の火蓋は切られる!!
舞踏会に帝国式の衣装でやってきた貴族を見て、王がキレちゃったわ☆
しかも王の妾があんたを悪者に仕立てて来たわよ。
さあ、どうするの、クリス??
(by亡霊姫)
往々にして、急激に成り上がったものは急激に衰えるものだ。
現状に不満や不安を持つ者も、決して少なくはない。
社会とはそういう風にできている。
その日の舞踏会では、帝国の服や意匠を身に着けた貴族がそこかしこで見られた。
服そのものではなくても、帝国産の宝石や装飾をつけているという者もいた。
ただ完全な帝国式にしている者は、傍目にも暑さに苦しめられている者が多かった。
王妃は相変わらず、完璧な帝国式の身なりだった。
青みがかった銀のドレスに小粒の金剛石が散りばめられ、見るだけで暑さを忘れさせるような居住まいである。
その視界の上の方では、いつもの格好の亡霊姫がゆらゆら揺れている。
『五……四分の一弱ってとこかしら?うんうん、良い感じね~』
思ったよりも早く効果は出ていた。
あの女、やはりここまで成り上がるにあたって相応の恨みは買っていたらしい。
「御機嫌よう、王妃陛下。今宵も太陽の如くお美しゅうございます」
「ええ、本当に良い夜ですこと。
公爵もお元気そうで、本当に良かったですわ」
始めに話しかけてきたのはパエルギロ公だった。
合流した王妃と公爵は互いの息災を喜び、歓談する。
だがそれも、玉座から響いた声によって打ち破られた。
「――王妃よ。どういうつもりだ」
王の顔も、声も、怒りで引き攣っていた。
剥き出しの苛烈な怒気を、王妃は静かに微笑んで流す。
「どういうつもり、とは?」
「そのような格好をし、他の貴族まで巻き込んで、この王宮を滅ぼすつもりでいるのか」
「あら。何がいけないのでしょうか?
帝国の服は、大陸全土で通じる立派な最礼装ですし、私は何も強制したわけではありません」
「…………っ」
これが、王妃一人だけのことであれば、春のいつかのように、国王として、そして夫としての強権でねじ伏せることもできただろう。
けれどここで、帝国派の全員を追い払うというのなら、もう後戻りはできない。
何よりも――
「何か、仰りたいことでも?国王陛下……?」
あの時とは状況が違う。
我が宮廷に帝国文化を持ち込むなと、帝国の服を着た者は出ていけと――パエルギロ公爵の眼の前で、言えるものなら言ってみるが良い。
微笑んで待ち受ける王妃の顔を見て、国王は喉を詰まらせた。
その瞳には依然激情が浮かんでいるが、言葉としては出てこないようだ。
周囲の視線が突き刺さるように集中する。
宰相の侯爵など、今にも卒倒しそうな顔色だった。
そう。彼らは、ここで帝国への反抗心を示すわけにはいかないのだ。
それが許されるような情勢なら、そもそもこの結婚が成立することはなかった。
その時だ。フィオラが顔を覆い、わっと泣き伏した。
「王妃陛下は……私をそれほどに、疎ましくお思いなのですね……だから、このようなことを……」
途切れ途切れに言って、涙に濡れた目を上げる。
化粧には少しの崩れもなく、花のように美しい泣き顔だった。
「ですが、お気に召さないことがあるのならば、直接私に言って下されば良いではありませんか……!
このような場で当てつけをして、陛下に恥をかかせずとも!
それが王妃の、妻たる方の振る舞いなのですか!?」
『おおう、中々の応手。
政治的なことから、女同士のことにすり替えてきたわね。
おまけに悪役を押し付けられるオマケつき☆どうする、クリス?』
王妃は――……
「まあ……そのように思わせてしまっただなんて。
己の浅慮が恥ずかしい限りですわ」
王妃も泣いた。幼く儚い美貌にはらはらと涙が落ちていく。
寵姫に負けず劣らず美しい泣き顔だ。
「わたくしはただ――……ここに来てから本当に心細くて。
帝国からいらした貴婦人方が親身になって下さって、つい楽しくなってしまったのです。
それが国王陛下を苦しめてしまうだなんて……」
王妃は優雅な仕草で涙を拭い、泣き崩れた寵姫に微笑みかけた。
「誓って悪気はありませんでしたのよ。
お許し下さいませね」
「私こそ……出過ぎた振る舞いをしすぎました。
どうかお許し下さい」




