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釣れたのか釣られたのか~?変な男がまたひとり♪

舞踏会を間近に控えたある日のことだ。

図書館に足を向け、幾らか書物を見繕った。

本が必要なのもそうだが、王宮の人間との顔繋ぎでもある。

「……これでいいでしょう。誰か持ち運んで下さい」

「承知致しました、王妃陛下」

「またいつでもお越し下さい」


 にこやかな司書に見送られながら、侍女たちを連れて外に出る。

身動きする度香が立ち上るのにも慣れてきた。

立ち並ぶ建物の影を西日が焼いていた。

近頃の気温の変化で、侍女の中には体調を崩す者も出ている。


「王妃陛下」

「何かしら、ファビエンヌ」


 筆頭侍女に目を向ける。

相変わらずの冷えた無表情で、貴婦人は提言した。


「これ以上の外歩きは認められません。

あまりにも御身へのご負担が大きすぎます。

王妃宮への早めのご帰還を推奨致します」

「……そうね。疲れましたし、早く戻りましょうか」


 毎日皇宮医師の診察にかかっているが、用心しすぎるということはない。

王妃は出かける時、付き従う侍女に日傘を差させているが、その侍女たちも少し辛そうだ。

潮時だろう。


気持ち早足で歩き、庭に差し掛かった時、後方から小さな悲鳴と落下音が聞こえてきた。


「いきなり飛び出してくるとは何事ですか……!」

「ああ、本が落ちてしまって……前も見ないで走ってくるのがジディスレンの流儀なのかしら!」

「す、すみません!!急いでいて……今拾いますから!」


 見ると、本を運んでいた侍女が地面に転び、本が散らばっている。

その直ぐ側には、亜麻色の髪の青年が同じく尻餅をついていた。


ここからでは顔はよく見えないが、身なりからしてそう高位の貴族ではない。

だが口にしているのは、狼狽でつかえているものの、混じり気のない帝国語だ。

声の音調からして出自も低くはない。

そんな男は憤慨した様子の侍女たちに責められて、おろおろと謝り倒しながら、本をかき集めるように拾っている。

……面倒だが、仕方がない。

「エデル、怪我はありませんか」

「お、王妃陛下……大事ありません。

申し訳ありません、お見苦しいところを」


 転んだ侍女はすぐに立ち上がり、優雅に一礼してみせた。

その動作に不自然なところはない。

本当に怪我はないらしい。


続いて男の方に目を向ける。

 眼鏡をかけている以外、これといって特徴のない顔だった。

逆行のために顔に影が落ちる中、若葉の色の瞳だけが明るく見つめてくる。

一瞬夕日を受けて、眼鏡越しのそれが黄金がかって見えた。


「いやはや、本当すみません……これからはちゃんと周りを確認しながら急ぎますので。

こちら、落ちた本です。これで全部ですよね?」


 そう言って、何とこちらに積み重ねた本を突き出してきた。

当然侍女たちの怒りも再燃する。


「信じられない、王妃陛下に荷物を持てと申しているのですか!?」


「王妃陛下、このような無作法者を相手になさってはなりません!参りましょう!」


 一人が書物を奪い取って、憤然とした侍女たちに囲まれて歩き出す。



『…………ねぇ、今の男……』


 囁くような亡霊姫の声に導かれるようにして、少しだけ振り返る。


へらへらとした笑顔で見送る男と、王妃は一瞬だけ目を合わせた。


 夜が更けてから、自室に戻った王妃は改めて本を手に取り、装丁を確認し、表紙を撫でる。


そのまま本を持って立ち上がり――開かずに逆さに掲げ持った。


 ――頁の隙間から、はらりと紙片が零れ落ちた。


あらあら、偶然を装ってクリスに近づく青年がいるわ。

今度はこれまでの奴らとは毛色が違うわね~?

な~にを何を企んでいるのやら♪

by亡霊姫☆

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