表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
60/123

これぞストーカーの醍醐味!!!

 貴婦人たちが帰ってから、入れ替わりのようにやって来たのはヴァリナ夫人だった。

彼女を王妃は微笑んで迎えた。


「ご機嫌よう、ヴァリナ夫人」


「ご機嫌麗しゅうございます。

本日は特に暑く、お、王妃陛下におかれましてはさぞご負担のことと案じております。

つきましては……」


 気候の話を枕に、ジディスレンのドレスを勧めようとした彼女の言葉を、王妃の言葉が両断した。


「わたくし心配しておりますのよ。

夫人にはずっと、そういつまでも、わたくしのそばで、健康でいらして頂きたいと、日々願っているのですもの」


「……恐れ、入ります……」


 返答は滑らかに出てこなかった。

ヴァリナ夫人にとって、この状況は甚だ不本意なものであった。


 彼女には最初から、王妃への侮りがあった。


 前情報だけを考えれば、それは無理のないことだった。

相手は突如異国に放り込まれた、十五歳の小娘だ。

それも遥か北の王国から逃げてきた、落ちぶれた女王だ。

名ばかりの王妃、人質という状況で、環境に適応するだけでも並の苦労ではないことだろう。


 多少強く出てやれば、途端に萎縮して言いなりになるはず。

最初に格付けを済ませておけば、手綱を取るのも難しくない。

フィオラにはそう言われたし、彼女自身もそう思っていたのだ。それなのに。


 王妃の姿を窺い見る。

大量の絹を重ね、寄せ、流したドレス。

初対面の日から今日まで何一つ変わらぬ、極めて華麗であり重厚な装いだ。

日に日に暑さは増すばかりだと言うのに、汗一つ浮かべているのを見たことがない。


「時に、ねえ……」


 王妃の声がやや調子を変え、一層密やかに、柔らかくなる。

びくりと体が震えそうになった。


「昨夜お帰りになってから、ルーニャ産の白ワインを三杯召し上がったのですって?

あの銘柄は特に甘くて喉越しが良いそうですね。

暑い日が続きますから、お酒が恋しくなるのは仕方ありませんが、少々心配ですわ。

お体に障りはしないかと……

床に入っても中々寝付けずに、寝返りを五度も打ったのでしょう?お気の毒に」


「……もったいないお言葉です」


 冷や汗が背中を伝う。

上辺だけは優雅に、思いやり深く、それでいて真綿で首を絞めるような――王妃の近くにいると、そんな言葉が度々飛んでくる。

いつしか、王妃の傍にはいたくないと思うようになっていった。


 だから、王妃の侍女たちが持ち込んでくる用事を、いつしか待ち受ける自分が生まれていた。

王妃といると本来の務めも忘れて、離れたくて堪らなくなるのだ。


 王妃はずっと、笑顔でこちらを見ている。

言うはずだった言葉も出てこない。

沈黙が流れる。

彼女はとうとう、音を上げた。


「……恐れながら、本日はもう失礼してもいいでしょうか?

贈答品の整理を、ファビエンヌ様に頼まれておりますので……」


「あら、そうだったの?では、お願いします。

……ああ、言い忘れていました。七日後は来なくて結構よ」


「……ど、どうしてでございましょうか?」


「だって……その日はご夫君の命日でしょう?どうぞ、弔って差し上げて」


 ひゅっと喉が鳴った。それは彼女にとって、触れられたくない場所だったのだ。


 彼女の実家は、いわゆる成金貴族だった。

家格は低いが金はある実家と、家格は高いが金のない婚家による政略として、結婚が決められたのだ。


「ええ、分かっていますわ。

ご夫君との関係はよろしくなかったのよね?

ですが死後だからこそ、通じ合えるものもありましょう?

わたくし、そういうことには一家言ありますのよ」


 夫は彼女を嫌悪した。

求めていたのは持参金と経済援助だけだった。

見下され、蔑まれ――そこから助けてくれたのが、フィオラだった。

だから、彼女に従うのだ。


「さすがに、一度のお墓参りもしないのはあんまりではありませんか?

騙されたと思って、一度お試しになっては如何?

そうね……お好きだったという百合でも供えて差し上げたら、喜ぶのではないかしら?」


「…………」


 最早彼女の口からは、辞去の挨拶すら出てこなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ