ライエラ家にまつわること①
ライエラ侯爵家は、ジディスレンでも有数の武門である。
現当主は元帥の地位につき、軍部に対して絶大な影響力を有している。
将兵のみならず一般の国民からの信望も根強い。
権勢を振るうフィオラにとっても、やすやすとは手出しできない家柄だった。
この家をいきなり排斥すれば、軍部の混乱は必至である。
いつ、どこと戦争が始まるか分からない状況で、それはあまりにも危険だった。
ライエラ侯爵自身もフィオラたちと敵対しているわけでもなく、程々に距離を保って親交を持っていた。
かといって親帝国派への排斥に与するわけでもなく、中立寄りの立場を維持している貴族である。
(一言で言えば蝙蝠。あちらの味方でも、こちらの味方でもないのでしょう。
今すぐに敵対してこないだけましというべきね)
『そぉんなことだからあんな風に、南の虫どもに馬鹿にされるんじゃないかしらあ。
苛烈さで鳴らしたエヴァルス皇族の末裔が笑っちゃう』
(亡霊姫、少し黙ってらっしゃい。観客の野次は嬉しくないし、こちらはこちらで考えがあるの。
――最初から力押し一辺倒では、わたくしがここへ来た意味が無くなってしまうでしょう?)
そんなライエラ侯爵の後妻ルルシラは、元は帝国の子爵令嬢であったそうだ。
それがジディスレンとの政略結婚が決まり、数年前嫁いできたらしい。
侯爵家には前妻との間に設けた後継ぎがいる。
帝国としては、本当はこちらに嫁がせたかったようだ。
そうすれば、侯爵家の次代に帝国の血を取り込ませることができる。
年齢的には息子の方が釣り合いが取れるし、政略的にも都合が良かった。
だが、ジディスレン側がそれに抵抗した。
諸々の交渉の末決められたのが、現侯爵とルベット子爵令嬢の結婚であったらしい。
子爵令嬢はこのような経緯で、父親ほど年の離れた男に嫁がされたわけだが、本人はとくに悲観もせず楽しくやっているようだと――それが、席に戻った王妃が、アーゼリット侯爵夫人とその他数名から教わった経緯だった。
「後妻だからと、あの方はいつまでも娘気分でふらふらと……せめてお子ができれば、また違ってくるのでしょうが。
今の調子では本当に侯爵のお子かも疑われかねませんし、全く嘆かわしい……」
「王宮がこのようになってからも、赤ワインを勧められれば飲み、白ワインも勧められれば飲むといった感じで……諭そうにもあの方は曖昧に躱されてばかりで、果たしてご自身の務めをどこまで理解しているのか……」
「後妻といえば、そう、ヴェルカ公爵夫人もね。
あの家もどうなることやら……」
一瞬、話し合っていた声が途切れた。
王妃が目配せすると、扇越しに潜めた声でひそひそと語られる。




