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おやおや、今度は誰かしら?

『あれで良かったのお?クリス』


 当然だ。布石は多く打っておくに越したことはない。

役に立たないならその時はその時である。


 待機していた侍女たちのもとで軽く休憩と指示を入れ、その帰り際だった。

どこからか女性の笑い声が聞こえ、王妃は足を止めてそちらを窺う。

……その女性の何かが、意識に引っかかった。

王妃の生来の直感、嗅覚とでもいうべきものが反応したのだ。


『あらあら、なかなかの美人ね。あれが噂のライエラ侯爵夫人か~』


 そう、宴の席で一度見かけた顔だった。

淡い水色の目は、きらきらと輝きながらも焦点があやふやだ。

声も華やかだが浮ついた調子で、濃密な花の香を思わせる。

金褐色の艷やかな髪は一見ありふれた色のようで、絶妙な色味をしていた。

甘やかな印象を与える、独特の光沢がある柔らかな巻き毛を、後頭部で花のような形に結い上げている。

飾り紐とともに零れ落ちるおくれ毛すらも、洒脱な感じがあった。


 着ているものは、ジディスレン式のドレスだ。

装飾に乏しい布の流れは、起伏に富んだ体の線を際立たせる。

装飾品の取り合わせも絶妙で、花の精のような佇まいだった。

頭から足元まで調和の取れた装いで、独特の可憐さと艶やかさを醸し出していた。

総じて隙がある、というのだろうか。

否応なく目を引き寄せるような、不思議な色香があった。


『や~だ、暑苦しい。まあ妾、暑さってあんまり分かんないけどね☆

生前は一生北国で過ごしたもんだから~』


 そしてそんな美女は、庭の隅で武官らしき男に抱きすくめられていた。

襲われているのかというとそうでもなさそうで、男の腕の中できゃらきゃらと笑っている。


「ルルシラ様、やっとお会いできました……!俺はあれから、一日千秋の思いで……!!」


「やだあも~♡こんなところで~?」


 明らかに、宴で見かけた夫ではない。

いや、夫にしたってこのような場で馴れ合うのは作法に反するが、とにかく――


 下劣。

 それがその女性に、王妃が抱いた第一印象であった。


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