あっちこっちで人気者~!②
「…………」
扇を閉じる。王妃はさり気なく向きを変え、分厚い生け垣を背後にした。
侍女は心得て身構え、一人が数歩分の距離を取った。
すぐに駆け出すことが可能な位置取りだ。
『そうそ~用心深いのは良いことね?
さあ、こいつはどれくらい情報を絞り出せるかしら?』
「ええ、そうですね。色々と不安も多うございましたが、気遣って下さる方々の御心は何にも代え難く思っておりますの」
「素晴らしいことでございます。
ですが、こうお考えになったことは?
彼女たちは己のため、家門の益のために貴女を利用しているのだと……
それは忠義と言うのでしょうか?
恐れながら王妃陛下が不利になった時、どれほどがお味方するでしょうか?」
「……まあ。他の誰かならば、混じり気のない献身が捧げられるとでも?」
王妃はことさらにゆっくりと言う。そしてその返答に王妃は微笑し、それまで言い寄ってきた相手にしなかったことをした。
その理由は色々とあるが、最たるものはやはり、相手が帝国の装束を着ていたからと言える。
手を差し出し、触れることを許したのだ。
帝国の仕草で跪き、恭しくそれを戴いた貴公子は、すぐに驚愕することになる。
冷たい。
太陽の光が集まった、真夏のような気温の庭で。
王妃の手は、手袋越しでも分かるほど冷たかったのだ。
このジディスレンの太陽も熱風も、完全に拒んでいるように。
それは人の技とも思えなかった。心に氷のような畏怖が這い上がる。
それだけで、彼は理解する。
この王妃は帝国そのものなのだと――帝国が滅びるその時まで、決して揺らぐことはないのだと。
だからこそ、この手を逃すわけにはいかなかった。
この手に命運を預ける他ないのだ。
畏怖に強張りながらも優雅に、彼はあるものを捧げた。




