あっちこっちで人気者~!①
「王妃陛下、お手をどうぞ」
「ありがとう、レナート」
ここ最近で特に日差しが強い。
王宮の夏の庭を、騎士を伴って王妃は歩いた。
あれからレナートは王妃の身辺に仕えることが増えていた。
裾を捌いて歩みを続けるその後に、数名の侍女が続く。
扇を胸の前に持ったまま、滑るように移動する王妃の姿は、当然のように貴族たちの注目を集めていた。
『あっちにキラキラ~☆こっちにふわふわ~❆魔法をめしあがれ、野郎ども~~♪』
帝国のドレスや装飾は、ただでさえ重い。
まして正装となれば、重装鎧と言ってもいいほどのものだ。
暑い日の日中に出たりすれば、多くの者は歩くだけでも難儀するだろう。
にも関わらず、王妃の顔には汗一つなく、連なる布は歩みに乱れなく従った。
「…………」
こうしていながら、思い出すのは昔のことだ。
氷のように冷たい石壁。
息を吸うだけで刻まれるような寒さと、下郎どもが嘲る声。無限に反響する金切り声。
かつての日々において、王妃の身も心も凍り切っている。
人々を辟易させる暑さも僅かも通らず、布一枚を隔てたように滑り落ちていく。
王妃に話しかける者も増えた。
牽制目当ての者もいたし、逆に王妃に色目を使う者もいた。
思惑はそれぞれだが、口説き文句にはそこまで幅はない。
大抵が王妃にこれみよがしに同情して見せて、そして力になりたいと続けるのだ。
王妃の反応は、相手の言葉によって大きく変わった。
ジディスレン語の呼びかけには、儀礼的な微笑みを返すだけ。
そして帝国語であっても、身なりや発音など、どこかしらに難や不備があるものは侍女が相手をする。
帝国の装いをし、帝国語を話すものにのみ自ら応じる。それが王妃の応対だった。
そうされては、実際にジディスレン語をどこまで理解しているのか、いないのかが明確にならない。
その曖昧さが厄介なのである。
「王妃陛下のご苦労、我が身のことのように感じております。
せめて私めが、そのお心を慰めることができれば良いのですが……」
完璧な服装と帝国語でそう訴える者もいた。それでも王妃は微笑を崩さず、
「まあ……ジディスレンの方はいつでもお元気でいらして、羨ましい限りですわ。
ですが、私には皇帝陛下の御前で結ばれた誓約がございます。
どうぞ、ご理解下さいませ」
そうなあなあに受け流す。あまりにしつこい時は、レナートが追い返す。
そんなことを何度か繰り返していた時だ。
「王妃陛下、お初にお目にかかります」
王妃はその相手を認めて、微笑したまま目を細めた。
辺りを見ると、ちょうど人通りが少なくなっていた。




