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暑さ?そんなの、魔女には全く関係なしの無問題!!②

 王妃は全く意に介さぬ様子で進み、流れるように着席した。

傍に座っていた同じく帝国式ドレスの貴婦人たち、今や王妃派と呼ばれる彼女たちが、王妃に挨拶と祝福の言葉を向けようとした時だ。


「……まあ、妃殿下は未だこちらの礼儀に馴染まれませんのね。

さぞお寂しいことでしょう」


「ええ、寂しゅうございます。

でも皆様の温かいご忠告には、感謝しておりますの」


 王妃に話しかけたのは、寵姫派の筆頭として知られるヴェルカ公爵夫人だった。

彼女の言葉はフィオラの代弁と言っても過言ではない。

一体王妃に何を言うつもりか、辺りの空気も少し張り詰めるのを感じる。

彼女は通り一遍の挨拶を並べた後、王妃へと水を向けた。


「本日の妃殿下は、恐ろしいほどのお美しさですわ。

皇帝の正統なるお血筋を引く御方は違いますのね。

私如きの目には、その威光は眩しすぎて目が潰れそうです」


 その言葉に、一瞬辺りは静まりかえった。

公爵夫人の立場で、その大仰すぎる美辞麗句は、所詮お前は七光りで捩じ込まれた小娘だという含意を存分に伝えている。

更に「この場に帝国文化を持ち込むな」という意思を、かなり直球で伝えている。


 ましてこれは男系の皇統ではない、つまり正真正銘の皇女ではない王妃を揶揄していると取られても仕方がない発言だ。


 クリスベルタは皇帝の孫だが、イーハリスに嫁した皇女の子供であり、正確には皇族ではなく準皇族にあたる。

本来であれば女系の血筋、それも一度別の国の王位についた者を皇族として扱うことなどあり得ない。


 だが、現在のイーハリスの政情が政情だ。

イーハリスの王権を受け継いでいること、現在政略結婚の駒に使える皇女が少ないことから、特例として皇族同然に遇されていた。


 衆人環視の中で王妃は、何ら感情を覗かせず微笑んでいる。

光の加減からか、その顔は蝋細工のように無機質に見えた。


「まあ。

そのような遠遠しいことを言ってくださいますな。

陛下に嫁いだ以上、わたくしはイーハリス女王であるより、そしてエヴァルス皇女であるより先に、まずジディスレンの王妃でございます。

一日も早く宮廷に馴染み、王妃としての責務を果たす所存ですわ」


 ジディスレン語で放たれたその言葉に、張り詰めていた空気は更に緊迫した。

称賛や観察、あるいは邪険の視線が王妃に浴びせられた。

王はあからさまに苛立った様子で、酒盃を持つ指を痙攣させる。


「……まあ……貴方様が、これほどまでに言葉をお解しになるとは、驚愕の極みでございますわ。

これまでお傍に通訳を常にお付けになっていたご様子からは、まるで――そう、魂すら通じぬ異邦の方かと。

まさか耳を澄ませ、我らの語らいの数々を拝聴なさっておられたとは、露ほども思わず。

驚きに満ちております」


 裏読みすれば、「ずっと言葉が分からないふりで盗み聞きしていたなど陰湿では?」 という当てつけだ。

王妃は静かに微笑みながら、柔らかく言い返す。


「まあ。

私ったら、皆さまにそんなにまでご心配をおかけしていたなんて……心苦しい限りですわ。

 でも、仕方ありませんでしょう? 私にとってこの国でのことは、全てが初めてで、驚きと発見の連続でございましたもの。

異国の風に、色彩に、香りに……言葉に耳を傾ける暇もないほど、毎日が鮮やかに移り変わって……右も左も分からぬ私には、ただただ圧倒されるばかりでした」


 目を伏せ、吐息混じりに王妃は語る。


「ですから、つい――ね? ただ耳を傾けるだけの日々が続いてしまって。

でもそれが失礼に当たるなんて、思いもよりませんでした。

このように晴れやかなお席で、ようやくお言葉を交わせることが、ただ嬉しくてなりませんの。

 ――どうか、お許し下さいませね?」



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