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贈与!贈与!もいっちょ贈与!

 王妃はと言えばそれからも、面会を求める貴族たちに応じては、時折下賜品を与える日々を繰り返した。


 ある日には、帝国の食器や酒を与えた。

「帝国の贈り物ですわ」


 ある貴婦人には、帝国の装飾品を与えた。

「貴女にお似合いですこと」


 ある文官には、帝国の書物を与えた。

「ご興味がおありと聞きましたわ」


 帝国の織物や調度品を与えたこともある。

「お部屋に飾ってくださる?」



「……妃殿下、もうこのようなことはお止め下さい」


 やって来たヴァリナに静かに、だが激しく問い詰められた王妃は、不思議そうに微笑んだ。


「……何がいけないのか分かりません。わたくしはただ、王宮の皆様と楽しくお話をして、そのお礼を渡しているだけよ?」


「はっきり申し上げましょう、貴方様の行いは、文化的侵略と称されても仕方のない行為でございます。

ただでさえ未だに、妃殿下のお立場は確立されていないというのに……!」


 扇の向こうから覗く、王妃の瞳。淡く金を帯びたそれに、どこか気圧される自分がいた。

それを認めまいとして、更に苛立ちが加速していく。


 王妃の下賜は、貴族たちに着実に変化を与えていた。


 食器や酒を与えられた者は、茶会や晩餐会の席でそれを振る舞った。

 装飾品を与えられた貴婦人は、それを常に身につけるようになった。

 書物を与えられた文官は、帝国よりの意見を発信することが増えた。

 調度品を与えられた貴族に至っては、呼んだ客たちに片端から自慢する始末だ。


 それらの変化はじわじわと浸透し、人々の意識を変えていく。

捨て置けば帝国の服をまとい、帝国文化に倣って振る舞う者が増えていくだろう。

今はそれほどでもない。しかし――


 これ以上帝国臭い者共に、王宮を掻き乱されてたまるものか。

そう思う夫人の声はどんどん高くなる。

形だけは忠言の体を保ったまま、言葉は一気に過激化していく。


「あの貴族たちはこの国を帝国に売り飛ばさんとして、そのために貴方様を利用しようとしているのです!

妃殿下にはその対処は荷が重すぎ、取り返しがつかない状況になってからでは遅いのです!

社交ができないならできないなりに、毅然と撥ねつけるのが王妃たるものの勤めではありませんか!

貴方様は全て我々の申し上げる通りにして下されば良いのです!妃殿下は――……」


「失礼。ヴァリナ夫人」


 そこに口を挟んだのがレナートだった。

偶然王妃宮に詰めていた騎士は、この流れを見過ごすことができなかった。


「その仰りようは、あまりにも……そのような伝え方では、折角のご心配も歪んだものになってしまうでしょう。

王妃陛下は陛下なりに、この国に馴染もうと努力して下さっています。

どうか、その御心に向き合って差し上げて下さい」


「な……あ、ええ……そうね……」


 夫人は一瞬怒りの表情を浮かべたが、すぐに冷静さを取り戻した。

確かに、こんな人前で王妃を追求しても良い効果は望めないだろう。

帝国使節が到来し、状況が変わった今となっては、自分が更迭されることすらありうる。

そうなっては元も子もない。


「……失礼致しました。冷静を欠いておりました」


「いいえ、構いませんわ。忠告は受け止めました」


 王妃は鷹揚に微笑んで、そして騎士にも笑いかけた。


「レナート、貴方もありがとう。これからもどうぞよろしくね」


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