どこもかしこも右往左往、まるで蟻の群れのよう!!
一方で中立派の者たちも、この状況には頭を抱える思いでいた。
寵姫に呼ばれれば赴き、王妃に呼ばれれば赴き、その時々で最も利得の高い方を選ぶのが彼らの処世術である。
だが、勢力争いをこういった目に見える形にされてしまっては、それも難しくなるのだ。
「赤ワインか、白ワインか。我々がどちらを手に取るか、注視されることは避けられませんぞ」
「どうしたものですかな。どちらを取っても角が立つ。
これ以上の面倒は遠慮したいのですが……」
「しかしこういう構図ができた以上、赤か白か、どちらかを決めねばならないと――
そう迫られるのも時間の問題でしょう。
ですが今は、旗色を決める時ではありません」
やがて彼らは、誰からともなく、結論を求めてある人物を見つめた。
「レンゲント侯爵……」
「…………」
宰相の顔はもう蒼白である。
こめかみの辺りに薄く、脂汗らしきものまで滲んでいる。
一同の注目を浴び、更に顔色が悪化した。
最近毎日のように帝国使節の接待だの調整だのに追われている彼の胃は限界を迎えつつある。
執務室に常備した胃薬の減りも日に日に勢いを増していた。
若き苦労人の宰相は眉間を揉みほぐし、何とかものを言おうとするが、言葉が出てこない。
「まあ、とりあえずは一杯頂きましょう。
どうですか、皆様も」
そこに助け舟を出したのはライエラ侯爵だった。
軍部の頂点に立つ壮年の紳士は、一見気難しそうな怜悧な顔に笑みを浮かべて周囲を見渡す。
「実は本日は、私からの手土産として持参したものがありまして。
然程特別なものではございませんが……」
そして運び込まれ、透明な杯に注がれたのは、深い琥珀色だった。
「妻が最近、熱中している酒でして。
彼女の熱が冷めるまでの間、我が家ではお客人にこちらを振る舞うことになりましょうな」
「ラム酒、ですか……」
一つずつ杯が配られていく。
一杯を飲み干す頃には、彼らの雰囲気も多少和らいでいた。
「……たしかに。ワインとは違った味わいですが、これはこれで良いものですな」
「ええ、甘味と苦味と、奥行きが何とも……
我が家でも取り揃えたくなって参りました」
中立派は元々、確固たる頭や目的のもとにまとまっているわけではない。
ただ寵姫と繋がりたくはないし、王妃が巻き起こした権力闘争にも巻き込まれたくないだけだ。
どちらかに与したくなったならそれも自由。
そして中立の位置にいるのならラム酒を選べば良い。
そういうことで、彼らは一応の同意を得たのだった。




