こっちをちょちょいと覗いてみたら~おやおや~?①
「ルシアーナ。この頃、ご家庭は大丈夫かしら?」
「ええ。夫は相変わらずですので……ご心配頂きありがとうございます」
「……ですが、継子の方は?」
「それこそ問題ありません。息子も生まれたことですし、いざとなれば最終手段がありますわ」
フィオラはその夜、腹心の貴婦人と密かに話し合いをしていた。
ヴェルカ公爵夫人は優雅な手つきで、小さく洒落た杯に白ワインを注いだ。
かつて侍女として、フィオラに仕えていた頃を彷彿とさせる仕草だ。
金色がかった泡を見つめ、フィオラは吐き捨てた。
「……こんなことになるだなんて。
ヨゼフとヴァリナは何をしていたのかしら」
「不運にも、件の時間帯は仕事や所用を言いつけられていたようですね。
王妃近辺の貴重な駒であることは間違いないのですし、暫くは様子見しながら使いましょう」
役に立たないようであれば、切り捨てるまでです。
公爵夫人は静かに言った。
彼女は必要とあらば自分自身の犠牲すら肯う人間であるだけに、その言葉は重かった。
「アーゼリット侯爵家、ヴァルネート侯爵家、カルヴァン伯爵家。
案の定この三家と、その傘下は王妃に追従するようね」
名を挙げた家の者たちは、既に王妃の支持と帝国への臣従を表明していた。
憚りもなく帝国の服をまとい、来客に赤ワインを振る舞うという形で。
これが厄介だった。
反逆を企てたならともかく、この程度なら「ただのその場の趣向」「好みの問題」ということで押し切れてしまうのだ。
「……この事態に国王陛下御自ら、厳しく対応して頂くというのは?」
「駄目よ、それでは陛下に傷がつく……
狭量で女の言いなりになるだけの男だと、更に言われることになるわ」
元々そういう風聞はあるのだ。
この上、必要以上の危険は冒せない。
臣下の家の宴や、趣向にまで逐一口出しする主君が、端からどういう目で見られるか。
王妃は何一つ命令したわけではない。
フィオラや取り巻きを攻撃しろとも、陰謀を巡らせろとも言っていない。
ただアーゼリット侯爵と歓談し、土産として酒を渡しただけなのだ。
それを受けて、周りが勝手に動いただけ――形式としてはそういうことになる。
一々目くじら立てて騒いでは、圧政と言われ反発を招きかねない。
かといって、捨て置くわけにもいかない。




