表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
40/123

魔女は神話がきらいなの①

 天の神々はかつて創世神たる母を殺し、冥界に沈めた。

そのため地上には、病や死やあらゆる不幸が満ちたとされている。

そして母の苦しみを慰めるために自ら冥界に下った女神が、主神ラシエの妹であり妃たるアプネルだ。


 その道行は過酷なものだった。

生まれたばかりの冥府において、彼女は断り無く侵入してきた異物だった。

進むアプネルの前には、異物を排除せんと多くの障害が立ちはだかったのだ。

死の獣に追われ、毒の海を渡り、混沌に満ちた冥界への道行を踏破した。

そうして母の骸の前に馳せ参じたアプネルは、壮麗な殯宮を創り上げ、自身を冥界の管理者と定めた。


アプネルはそれから歌い続けている。

死した魂を導くため、輪廻を正しく回すための魂呼ばいの歌。

それが、天上の女神としての全てと引き換えにアプネルが得たものだ。


 そして残されたラシエには天上を統べ、地上を見守るという自らに課した使命がある。

天と地と冥界は神といえど、容易に行き来できるものではない。

それ故、冥界の女神となったアプネルと逢うことは叶わない。

もしもそれが叶うとすれば、全ての命が絶え、世界が無に帰し、冥府が役目を終えたその時のみ。

その瞬間までアプネルが解放されることはない。

かくして二柱は生き別れとなった。


 天地開闢から、片時も離れず傍にあった愛妃を失ったラシエは深く嘆き、悲嘆の余り地上に雷雨を降らせたという。

そして雨が上がった時、とある丘に、祝福の証のように葡萄が一房実っていたと言われている。


 これが帝国最古の葡萄畑であると言われている。

この丘から採れた葡萄を使って作ったワインが「ラシエの涙」と呼ばれる由縁だった。


 今も天上界には神々がおり、人の世を見守り、時に加護や罰を下す。

その神話と教えを伝え、人を導くのが、ラシエ教とそれを奉る神殿だ。

そして主神ラシエが人間として生まれ、地に降臨した時の名がエヴァルスであり、現在使われている暦はその誕生を起点にしたものである。


 エヴァルスの子孫を謳う皇帝は、つまるところ神の子孫である。

この神話を背景に、帝国は傲岸不遜に、そしてそれに恥じぬ実力を以て歴史を牽引してきた。

千五百年もの間である。

神の血を引き、その歴史を担う皇帝は、他国の君主とはそもそもの格が違うのだ。


 そしてそれは貴族も同様だ。

帝国の公爵家は、他国のそれとは格が違う。

まして公爵家の中でも五指に入るパエルギロ公爵家当主となれば、他所の王家にすら引けを取らぬ力を持つ。


 そもそもこの王宮に帝国公爵が乗り込んでくるなど、ここ数十年なかった異例の事態だ。

そのため彼は到着以来、ほぼ休み無しで国使の任に専念していた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ