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通訳としては屑だけど、道化としては悪くないわ②

 あれからというもの、王妃のもとには手紙が降るように届く。


 そして、その作業に時間を奪われ、王妃の言葉を操作できる時間が減っていた。

数日に一度か二度は貴族との社交場に同席し、王妃の言葉を独占的に受け取れる機会もあるが…………最近はそれにも何か、不気味なものを感じるのだ。


 そもそも王妃が多少でもジディスレン語を解した時点で、彼の立ち回りは破綻するのだ。

先日のことを問い詰めた時、ヨゼフに王妃はこう答えた。


「いきなりの公爵の訪れに、皆、戸惑っていたでしょう?

ジディスレンの皆様を安心させたい一心で、一生懸命練習したのですが……

ひょっとして、何か変な言い回しをしてしまっていたのかしら?」


 帝国使節の訪れから、王妃は変わった。

少なくともヨゼフにはそう見える。


「大丈夫よ。貴方から受けたご親切、何一つ忘れていませんから。

だから……これからもどうか、今のまま、よろしくお願いしますね……?」


 それは、言葉で言い表せるような変貌ではない。

表情も、話し方も、何一つ以前の王妃と変化はない。


 なのに、何かが違う。

慎重に隠されていた牙が剥き出しになり突きつけられているような、そんな恐怖が這い上がる。


 ならば変わったのは王妃ではなく、ヨゼフの心であるのかもしれなかった。


『あらまあ、たったあれだけで塩振ったナメクジみたいになっちゃったわね~

そんなことじゃこれから保たないわよ、根性なし♪あはは~』


 亡霊姫がけたけたと笑う声を聞き流し、王妃は目録を取り出す。

そこにずらりと並ぶのは、先日パエルギロ公が預かってきた、皇帝からの下賜品である。

今は空いていた離宮に入れ、宝物庫の整理を急がせているそうだが、そこは王妃にあまり関係のないことである。

宰相辺りは目を回していることだろうが。


 それよりも大事なものは、何があるか、である。


(……絹織物、衣類、宝石、貴金属類、装身具、香水、書籍、絵画、楽器、酒類、茶葉、医薬品、武具、調度品……)


 紙面でも圧倒されるほど膨大なそれらに目を通し、そして検討する。

どれを、どこで、誰に使うか。

最大の効果が期待できるのはどのような方法か?


『ね~えクリス、クリスったらクリス~……妾の魔法、いつ必要?』


 やがて、王妃は微笑んだ。


「……わたくし、アーゼリット侯爵とまたお話したいわ。

あの方からは、帝国の香りがするのですもの」


 独り言のように呟く。

しかしそれは、必ず相手の耳に届くという確信があった。


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