通訳としては屑だけど、道化としては悪くないわ①
「妃殿下……!」
「あら、ヨゼフ。どうしたのですか?」
王妃は荒々しく入室してきた通訳に、風に揺れる花でも見るような目を向けた。
「何故最近、私を遠ざけるのですか!?
御身はジディスレン語の会話がままならないことをお忘れですか?
取り返しのつかないことが起きる前に、すぐに私をお側へお戻し下さい!!」
しかしそれに、王妃は邪気のない仕草で首を傾げる。
「だって、仕方がないでしょう?
貴族には帝国語を話せる方が多いので、特段会話に不自由はしませんし……
それより、最近色々とお手紙が来るようになりましたから、翻訳して下さらなくては。
通訳とはそのための存在と考えていましたが、違いますか?」
「でしたら別の通訳を手配致します!何も、私が一から十まで……」
「だって、貴方が一番信じられるのだもの。
来たばかりの頃から、ずっと助けてくれた……ねえ、そうでしょう?」
語尾が僅かに冷えた、そんな気がした。
ヨゼフは気圧されそうになる自分と、させまいとする自分の板挟みになりながらその姿を見つめた。
思い出すのは、帝国使節が訪れた日の王妃の姿だ。
あの時、王妃は氷の割れるような声で、「ジディスレンは本当に素敵な国」と言い放った。
ここまでの扱いを微塵も理解していない鈍麻か、或いは――
宣戦布告。
そんな言葉が頭を過った。
それはヨゼフだけではないだろう。
王妃が初めて見せた、能動的なその振る舞いは、即座に貴族社会に広がり、人心を揺るがした。




