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お医者様とお話お話~~!②

「……っ!?」


 エデルは、何だか変な言葉が聞こえた気がしてぎょっとした。

この王宮でよく耳にするジディスレン語ではない。

慣れ親しんだ帝国語だ。

それで何か、凄まじく冷え切った女性の声を聞いた気がしたのだが……声がした方角に、女性は一人しかいない。

だとしたらそれを言ったのは……エデルは、怖怖とそちらへ目を向けた。


「…………?」


 椅子に座る王妃は笑っている。

いつもの静謐で柔和な微笑みで、皇宮医師と小声でやり取りしていた。


(い、今のって……皇女殿下が……? ……そんなはず、ないよね。

空耳……気のせい……よね……?)


 異国の暮らしが続いて、疲れているのかもしれない。

そう思い直して、姿勢を正す。

それでも何故か心臓は煩いままで、指先は変に冷たかった。


「……」


 ウィレムは、何も聞いていませんと言わんばかりの笑顔を崩さない。

それは当然の反応だった。

見ざる聞かざる言わざる、ただ己の職務のみに専念する、それが王侯貴族に仕える上で最低限求められる心構えというものだ。

全てを無かったことにして向き直ると、老医師も切り替えるように咳払いした。


「時に、私がジディスレンに参った件についてですが……二つとも、どうやら可能性は高いかと」


「そう……本当に?誤診を疑う気はないけれど、確信が持てているの?」


「一つはまだ確言はできません。

皇女殿下ご自身にもお分かりでしょう。

いま一つについては間違いございません。

適当な口実をつけて、皇宮で調べておいたのが功を奏しましたな。

ただ、いやはや、このような……おめでとうございますと、申し上げるべきか」


「おめでたい――そうね、おめでたいわ、本当に」


「辛辣なのはお変わりないようで……。

……そう、無論、皇女殿下の御心に沿うための私でございますが、医師の倫理に背くようなことは極力したくはありませんな」


「……そういうところが貴方の美徳であると分かっているつもりです。

全てこちらで片付くよう考えてあります」


「恐縮です……時に皇女殿下、お耳汚しを失礼してもよろしいでしょうか」


 答えずに目線で促すと、真顔の老医師はゆっくりと息をついた。


「私如きが殿下のなさりように口出しできるものではないと、重々心得ておりますが……来たばかりのこの老体の耳にも不穏な噂が届いております。

あまり性急に事を運ぶのは危険ではないかと……」


 気遣わしげな老医師の進言に、王妃は微笑みだけを返した。

そのまま指輪を外して皺の寄った手に握り込ませようとすると、すぐに手の中に押し返された。

相変わらず頑固なようだ。

微笑む顔はそのままに、口調に僅かな険を籠める。


「……色々なことについて、暫くは公表する気はないの。

そのつもりで黙っていらっしゃい」


「しかしこれを明らかにすれば、皇女殿下のお立場は、」


 そこまで口にしたウィレムは、王妃の眼光に口を噤んだ。


「その時機はわたくしが決めます。

来るべき時まで目を閉じ、耳を塞ぎ、口を噤んでおりなさい。

そして務めを果たしなさい。

そうしていれば、悪いようにはしないから」


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