お医者様とお話お話~~!①
パエルギロ公が連れてきたのは、使節や贈答品だけではなかった。
皇族に仕える皇宮医師たちもである。
「ただでさえ、ジディスレンは皇女殿下に馴染みの薄い異国。
夏になればお辛いことでしょう。
皇帝陛下のご下命を受け、連れて参りました」
その言葉通り、最近は急激に暑くなってきていた。
じりじりと全身炙られるようで、薄布の下で汗の滲む感触にうんざりとする。
ここに来たばかりの頃よりも、王宮の日は長くなっていた。
緑は深く染まり、光は目に刺さるほど鮮やかだ。
徐々に日差しが長く激しくなり、気温の上がりゆく日々が過ぎていく。
だからこそ、その贈り物は得難いものだった。
「……ああウィレム、貴方でしたの」
翌日訪れた老医師の姿を見て、珍しいことに王妃は少し気の抜けた顔をした。
皇宮にいた頃、何度か見た顔である。
貴族の生まれであるこの医師は、稀なる才覚で若くして皇宮の医師に連なることを認められた存在だった。
以来何十年と皇帝に仕えてきた、熟練の古参医師であると聞いていた。
皇宮の医師は皇帝のものであり、皇宮の急患に対応することが主な役割だ。
名誉は大きいが、許可がなければ与えられた敷地から出ることも許されない。
そのような、誉れ高くも不自由な身になることをウィレムが望んだのは、ひとえに皇宮直属の研究所が大陸の医療技術の最先端だからだ。
降りる予算も集められる資料も、使える器具や薬品の質も他とは比較にならない。
そうして何十年と研究に明け暮れてきた老医師と、三年前に皇宮に迎えられた皇女は、ある奇縁で顔見知りとなった。
そうした縁もあり、今回ジディスレンへの出向に選ばれたウィレムは、なるべく早く訪れた方が良かろうと馳せ参じたのである。
それ以来、王妃と医師は毎日のように顔を合わせている。
その日も朝一番に王妃と謁見したウィレムは検診を終えた後、王妃の望むまま雑談に興じた。
「昨日、何やら熱心な貴公子とお話なさっているのを拝見しましたぞ。
皇女殿下はこのジディスレンでも大変慕われているようで、私も帝国の一臣下として鼻が高いというものです」
「失礼ですからお止めなさい。あの方々は、異国の人間を紳士的に気遣って下さっているだけですわ」
そう言いながらも、王妃は微笑む顔に僅かな嘲りと侮蔑の色を浮かべた。
パエルギロ公が到着したあの日以来、王妃の周囲は一変した。
ウィレムの言葉通り、ここのところ、あちこちの貴族から言い寄られることが続いていた。
臣下の身でありながら主君の妃に恋い焦がれ、思いに耐えかねて縋ってきた哀れな崇拝者――などでは勿論ない。
立場を決めかねていた人間たちが、王妃に取り入る旨味を感じ擦り寄ってきただけだ。
つい先日まで王妃は、哀れな人質だった。
だが、帝国使節団の到来によって事情が変わったのだ。
今となっては王妃は帝国への窓口であり、無二の情報源でもある。
王妃を信頼させ、秘めた情報や手札を明かさせる。
そうなれば、いづれの派閥でも立ち回りやすくなる。
王妃自身から出た情報を武器にする。
そういった戦略も考えられる。
或いは、王妃の評判の下落を狙うこともあるかも知れない。
上手く誑かして骨抜きにし、醜聞でも起こせたら儲けものだ。
幾通りも考えられる。
色仕掛け、恋愛遊戯、諜報、謀略。
魂胆は千差万別あるのだろうが、情報源が向こうから来たのなら利用しない手はない。
「あら、お優しい方々。異国のことなど教えて下さるなんて有り難いわ」
「私のような者に、お声がけくださるのは勇気がいりましたでしょうに……」
王妃は接近してくる者たちに柔らかく対応し、常に穏やかに振る舞った。
そうすることが最適であると理解していた。
有益だ。だが、不快である。
「身の程知らずの駄犬どもが…………」




