第十一話 嫌われ王妃は国獲りを始めるようです③
広間は静まり返っていた。
理解が追いついていないのか。
予想を超えた事態に、誰も彼も、凍りついたように固まっている。
滑稽な眺めだった。何秒保つだろうか?
愉快さに王妃は音を立てず笑った。嗤った。
『あらまあ、クリス。始めるの、始めちゃうの?』
どこからか、楽しげな少女の声が響く。
そして他者には分からない気配とともに、亡霊姫の姿が現出した。
水の青に染まったような、透き通って光る銀髪が流れる。
怖気を振るうほど整った白い顔に、嵌め込まれた紅玉の双眸。
それこそ水の中のように、浮き上がって四方に流れる紅のドレスを纏った、世にも美しい魔女。
たっぷりの緞子を使い、毛皮と宝石を存分にあしらった衣装や冠は、遠き北の王国イーハリスにおける富の象徴だ。
宙に出現した亡霊姫は、それをなびかせてふわりと一回転する。
遥かな北の故郷。
三年前、そこから命からがら逃げて、追われて、射られて、墜落した海の中で出会った。
彼女は王妃にとって、最古参の仲間と呼べる存在であった。
そう――……誰よりも頼れる味方であり、不倶戴天の怨敵でもあった。
魔女である彼女を視認できるのは、契約した王妃だけだ。
誰に憚ることもない。
王妃は笑みを深め、潜めた声で、はじまりの呪文を唱えた。
「犠牲を捧げるわ。逆らう者は滅ぼさなくては」
『――待ってましたあ、そうこなくっちゃあ!!』
亡霊姫はくるりと宙を回転し、満面の笑みで叫んだ。
『さあ、さあさあお立ち会い!
冷遇、人質、なんのその!!
偉大なる転覆劇をご覧あれ――
嫌われ王妃は、国獲りを始めるようです!!』




