第十一話 嫌われ王妃は国獲りを始めるようです①
その日は、朝から心地よい快晴だった。
季節は夏へ向かいつつあり、辺りはまばゆいほどの明るさに満ちている。
白昼の陽光が、開放的な王宮のそこら中に差し込む。
陽射しに透けたレースの帳が風にそよぎ、花房のような香が漂う。
西塔の庭に面した小部屋、そこは亡き王太后の憩いの場であり、今は王と寵姫のためだけの私的空間だった。
色硝子のはめ込まれた窓の向こう、揺れる花々が二人を祝福するように咲き乱れていた。
「…………王妃が来て、もう一月か」
王が白ワインが注がれた杯を置き、肩を落とすようにため息をつく。
柔らかく笑ったフィオラは、膝の上に揃えた指を解き、ひとつ王の手へと絡めた。
「陛下の苦しみは私の苦しみです。
今日まで陛下がどれほど苦しまれてきたか、私は知っております。
けれど……せめて私といる時は、僅かでもお心を癒せていれば良いのですが」
「無論だ。お前がいてくれるから、だからやってこれたのだ。これからも」
「ええ、陛下。いえ、ヘルヴァルト様」
二人は以前と同じように、仲睦まじく寄り添い合う。
カラフも、その光景にほっとした。
――愛情は、確かにここにある。
冷徹で傲慢な、王妃と名ばかりの帝国の娘などではない。
この王の心はここにしかない。
意にそまぬ結婚を強いられても、何も壊れたりはしなかったのだ。
侍従たちも皆、安堵の眼差しでそれを見守っていた。
だが、そんな空気を裂く出来事が訪れる。
先触れを齎したのは突然に開かれた扉と、駆け込んできた一人の若い侍従だった。
「陛下、大変でございます!!国境より、早馬にて緊急報告が……!」
それに、王の眉が動く。
寵姫が不快げに視線を逸らした。
侍従は畏れを露わにしながら、絞るように言った。
「帝国より……正式な使節団が到着したとのこと。
入国を求めているとのことです。
少なくとも百を超える荷馬車と行列で、代表の紋章は……間違いなくパエルギロ公爵家の――」
言葉の先を聞くまでもなかった。
音が遠ざかっていく。
部屋の空気が、凍りつく。
フィオラは、一瞬にして冷え切った指を握りしめた。
「どうして、今になって……」
全く予想外のことだった。
掠れた寓姫の声は、しかし誰の耳にも届かない。
「彼らは、通過の許可を求めております。
国王陛下並びに、王妃陛下へ謁見を願い出ると……」
どこからか、強い風が吹き寄せた。
離れた中庭で、赤い葉を持つ低木の梢が激しく揺れる。
まるで空が、突如として色を変えたかのようだった。




