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第八話 帝国側にも色々あるんだからねっ!①

 帝国からジディスレンに嫁した王妃クリスベルタは、そもそもが極めて特殊な生い立ちと、危うい事情を持つ人物である。


 エヴァルス帝国はジディスレンの北に存在し、そしてその更に北には、イーハリスという王国があった。

クリスベルタはその国の先王の娘であり、現在の女王である。

イーハリス先王と帝国皇女の間に生まれた彼女は、父王の崩御によって三歳で女王として即位した。


 その頃にはもう、イーハリスの土台は傾いていたと言って良い。

身分によって凄まじい貧富の差があり、数代に渡って王侯貴族が下を搾取し続けてきた。

そこに疫病と飢饉まで襲ってきて、そこら中に死体が溢れかえる始末。


 だというのに貴族たちは政治を放りだし、権力闘争に汲々とする始末。

幼い女王に何としても近づこうとする彼らの目には、飢えに苦しむ民など映っていなかった。


 これに民は怒りを爆発させ、蜂起した。

これが、イーハリスの政変と呼ばれる出来事だ。

物心ついたばかりだった女王は、摂政であった母共々、あえなくその座を追われることとなった。

当時の幼子は何が起きているのか、それすら理解していなかっただろう。

そして三年前イーハリスから脱出し、帝国に保護されて今に至る。


 玉座を追われた四歳から、帝国へ亡命する十二歳までの八年間。

現在十五歳の彼女は、つまりその人生の半分以上を、北国の監獄の中で生きてきたことになる。

亡命し、祖父である帝国皇帝に保護されてからも危うい立場であることは変わらず、だからこそ祖国から遠く離れたジディスレンに、嫁ぎ先としての白羽の矢が立てられたのだった。



「かの姫君のお輿入れから、もう半月が経ちましたな。

今頃はあちらで、どうしておられるやら」


 酒の席での何気ないその一言に、その場に集った貴族たちは互いの目を見交わした。

投げかけられたのは彼らにとって決して些事ではない、しかし我先にと熱中して飛びつくほどでもない、そんな話題だった。


 そこはエヴァルスの皇都の中でも大規模な敷地を誇る、ロートベラール公爵家の館であった。

帝国貴族でも上層を占める貴族たちのみが集う内輪で催された食事会だ。

今宵は贅を尽くした料理の数々に舌鼓を打ち、貴族の中でも僅かな者の口にしか入らぬ「ラシエの涙」まで饗された。


さしもの彼らも気が緩んでいた。

品よく杯を重ね、程よく酔いの回っていた頃だった。

そんな中提供された話題に、口々にそれぞれ思うところを述べる。


「……どうでしょうな。あの御方については、未知数としか言いようのないところがあります。

南国の頭の温い田舎者どもに、身の程を教えてくださればいいのだが」


「あの御方はこのエヴァルスで公の場に出たことすらほぼありませんからなあ。

果たして他国の王宮で立ち回ることがお出来になるのか。

社交界とは結局、根回しと場数が物を言う世界ですからな……」


「皇帝陛下の御膝元で大切に庇護されていらした御方です。

我々すらあまりお近づきになれたことがない。

そも此度の婚礼に関しては、皇帝陛下の御宸襟も些か不明瞭……反抗的な隣国に、わざわざ人質を差し出すなぞ……」


 現在皇族は数少ない。

長く続いた血族婚と、ここ数代の騒動で皇家は一気に痩せ細り、その数を減らしていた。

現在皇女は三人いるが、多かれ少なかれ健康面や精神面に問題を抱えている。

容色も頭脳も健康も血筋も全て兼ね備えた亡国の女王は、またとない駒であったのだ。

彼女がかつて君臨したイーハリスの情勢も、些細な切っ掛けでどう流れが変化するか分からない。

取り入ることができれば損ではなかろうが、かといって火種であるのは間違いなく、積極的に近寄るほどでもない。

皇女クリスベルタのことは、帝国貴族社会の中枢を占める彼らにとっては必須事項でも最優先事項でもない、そんなところであった。


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