第六話 そんなつれないこと言わないでよ!!②
貴族というものは、一度でも「見下していい」と感じた相手には容赦がない。
帝国の目がある以上一線を越えるわけにはいかないが、既に陰湿な嫌がらせが始まっていた。
例えば晩餐会の席で、王妃の卓だけが花が一輪足りない。
安価な装飾や、料理の配膳が王妃の卓だけ遅れてくる、器が違うなど、そういうことだ。
或いは、寵姫が王妃より高位の席に座るという「手違い」も多々あった。
王妃は徹底して帝国式の身なりと所作をし続けたが、そんな王妃に帝国式の挨拶をする者は少なかった。
最初から徹底して恭順の意を示しているのは、アーゼリット侯爵を始めとする数人ほどだ。
本人には確かに伝わるが、外交問題になるほどではない。
婉曲で、しかしはっきりとした侮辱行為。
王妃が行く先々でそれは行われた。
曖昧に笑ったまま、常に帝国語で、直接言葉をかけることもなく――必然的に、通訳の増長とあらぬことの吹聴を許すことになった。
「であるからして、陛下とフィオラ様の恩寵によって王宮は輝いているのです!
妃殿下も王妃と言えども、それをお忘れになるべきではないかと存じます」
挨拶に来た男は口喧しく一族の繁栄を主張し、
「我が家がこんな厚遇を受けて、申し訳ないほどです」と大仰に語る。
その上で王妃へ、申し訳程度の挨拶と美辞麗句を添えた。
だが全てが形式だけだと分かるような、じろじろと遠慮のない視線だ。
「しかしそれが帝国のドレス、そして名高きティオネル香でございますか。
皇家に伝わる宝飾品も、一度目にしてみたかったのですよ。今回の席は良い機会でした」
王妃を相手に、見世物の動物でも見聞するかのような言い草だった。
それにも王妃は反応せず、曖昧な笑みを浮かべるのみだ。
「ああ、しかし……この王宮の景色には、何とも不似合いなものですな。
帝国にお戻りになるべきでは?
我が国の価値観では、貴女の価値は解されぬようです」
そんなことまで言い切られても、王妃はただ微笑み、「心のこもったご挨拶、痛み入ります」と返す。
相手に届かない、ヨゼフにしか聞こえない密かな声で。
日頃から散々言い含めている通りに、今日もそれを守っていた。
愚かな小娘だと嗤いながら、ヨゼフは「返答」を紡いだ。
「貴方の身なりは実に下品で野暮ったくて見るに堪えない。
よくそんな無様な姿で私の前に出られたものだ……と妃殿下は仰っています」