第五話 歯車が回り始めたわ②
「……どう思う?」
「どうも何も、ありえないわよ」
侍女長のファビエンヌは現在王妃の傍についており、その他の侍女は待機中だった。
彼女たちは王妃の部屋に続く控えの間で、人に聞かれない程度の小声で囁きあう。
「こんな扱い、虜囚も同然ではないの!
田舎貴族どもが、皇帝陛下に連なる方を一体何だと思っているのかしら」
「皇女殿下も参っておられるのではないかしら……
表面上はお変わりないから、もしかしたら気にしておられないのかもしれないけれど……」
「そんなことはないわ。皇女殿下も傷ついておられるわよ。私、泣いておられるところを見たもの」
そういった侍女に、一斉に驚きの眼差しが集まる。
注目された侍女――エデルは、端正な顔に僅かな怒りを浮かべていた。
「本当なの?」
「ええ、私も驚いたのだけれど。物音が聞こえて様子を見に行ってみたら、ひっそりと泣いていらしたわ……」
「まあ、なんて…………お労しい……」
一人がそう言って絶句する。
主はこれまで、冷遇への感情をおくびにも出したことはなかった。
けれど、何も感じていないはずがないのだ。
「……このままでは、駄目よね」
「ええ、こんなことは許しておけないわ。
御家のためにも、ここは踏ん張りどころよね」
侍女たちは顔を見合わせて、誰からともなく頷き合う。
主人への侮辱は自分たちへの侮辱だ。
こんな暴挙を許したとあっては、自分たちの沽券にも関わる。
想定していた以上の逆風を受けて、侍女たちの結束は急激に固まりつつあった。