どこかの、誰かのものおもい
1511年、ジディスレンにて王妃クリスベルタが主導した反乱は僅か二月で終結し、全ては同年の春に決着することとなる。
王妃は帝国の後ろ盾とアーゼリット侯爵を始めとする国内貴族の助力を受け、王都を匪賊から奪還することに成功した。
生後間もなく即位したシグラート一世は、以後はエヴァルスの皇宮とジディスレンとを行き来しながら育てられることとなる。
これによってジディスレンは実質的に帝国の属国となり、以後はその歩みに従うこととなった。
春に嫁し、次の春に一国を掌中に収めた王妃は、再び皇女として皇宮に戻ることとなる。数えて十五の皇女の、たった一年の結婚生活。それによって大陸の勢力図が塗り変わったのだ。
それこそが、かの「狂母クリスベルタ」の運命の序章であった。
彼女は、紛れもない天才だった。彼女には実現させると決めたことを実現させる力があった。
亡国の女王には過ぎたるほどのその才が運命を狂わせ、大陸に混迷を齎したのだ。ただの王女として、ただの女王として生まれていれば、そうであれば。あれほどのことにはならなかったろうに。
1499年のイーハリス政変、初めて臣民が王を排した事件、そしてそこから始まった百年間。それは王が、王権がいかにあるべきか――万人に、その命題が突きつけられた時代であったと言えよう。
かの時代における彼女の存在は正しく、神話の再臨の如きものだった。我が子に討たれ、名を亡くした女神。麗しき創生の母。あらゆるものの源。この世の因果を産み、我が子を愛し、その選択を憎んだ女神。
そして、その結末すらも。
これにて一旦完結です。お付き合い下さりありがとうございました。
続編はぼんやり考えていますが、形になるのがいつかは分かりません……
いつか読んでいただける形にしたいと思いますので、そのときはまた読んでいただけたら嬉しいです。
そしてこれは宣伝になりますが、近いうちに新シリーズを始めたいと思っています。
「アンゼリカ姫と氷の帝国」南国の少女が北の帝国に嫁がされて、異文化体験したり騒動に巻き込まれたりする話です。
夏が暑くて暑くて辛すぎて、現実逃避しながら設定考えました。嫌われ王妃とはかなり雰囲気が変わりますが、そちらも楽しんで下さったらうれしいです。
よければ、また遊びに来て下さい。ここまでありがとうございました。