これにて終幕しゃららららん☆
クリスったら!ずっとこれを待ってただなんて、魔女もドン引きの悪辣さだわあ~!
(by 亡霊姫★)
その日も、そうだった。最後の相手を帰してから少し経った頃、新たな面会の申し出が来た。誰かと思えば、暫く前に姿を消したレナートだった。王妃は少し考えてから、扉で控える侍女に承諾を返した。
「二度とお目にかかるつもりはありませんでしたが」
そういった彼は、見る影もなく窶れていた。土気色の顔をして、虚ろな目だけが底光りしている。騎士は挨拶もそこそこに膝をつき、主人のために最初で最後の懇願をした。
「――……どうかお願い申し上げます。人払いをして頂けませんか」
「……」
王妃は微笑み、首を傾げる。何も言わない王妃に、騎士は切実に言い募った。
「無論、分かっております。今の王妃陛下が、ジディスレンにとってどのような御方か。それをおしてお願い申し上げます。……私に対する信頼が、ほんの僅かでも残っているのなら。どうか……」
「……そうですか。……そうね。よろしくてよ」
久しぶりに目にした、忠義厚い騎士の顔。それに王妃は微笑み、願いを聞き入れた。人の気配が失せていき、静寂が訪れる。……つい先日地獄が出現した王宮内とは信じ難いほど、静謐な空気だった。
「……お久しぶりね。容態はもう良いのかしら?」
「ええ、何とか……やっと、陛下に失礼でない振る舞いができる程度には……」
レナートが着ているのは騎士としての正装であり、帯剣していた。今の王宮ではほぼ見られない格好だ。
「……初めて会った時のことを、覚えておいでですか?」
「覚えていますとも。嫌がらせに難渋していたわたくしを、マントを汚して助けて下さった」
「……あれから随分と遠くに来てしまったように思います。陛下はどうでしょうか」
「………そうね。もう全て、遠い昔のように思えます」
王妃は背を向け、僅かに懐古を含んだ声を零す。とうに取りこぼし、そして拾い集めるつもりもない残骸を、それでもじっと見つめているような後ろ姿だった。
「――……そう、です。私は最後、たった一目でも王妃陛下に、お目にかかって……」
全てが一瞬のことだった。
レナートは腰から剣を抜き、一直線に王妃に斬り掛かった。長年の鍛錬で鍛えられた騎士が、全身全霊で振りかぶった剣だ。戦闘訓練を受けていない王妃に躱せるものではない。剣筋が華奢な体に迫り――
剣が標的に届くより前に、彼の胴体が鋭いものに貫かれた。
がらんと、剣が落ちる虚しい音が響く。レナートは衝撃で一瞬目が見えなくなった。耳に届くのは、忙しない何人かの足音と、「ご無事ですか、陛下」という声。伏兵が置かれていたのだ。そう理解する暇もなく、ねじ伏せられて拘束される。
「――……どう、して」
血の泡を吐いて驚愕する彼に、王妃は嘲りを隠そうともせず笑った。硬い靴が手を踏みつけ、剣を放させる。
「だって貴方、あの女の切り札だったのでしょう?」
血はみるみる広がる。フィオラが残した意思が、最期の命が消えていく。それが動かなくなってから、王妃はひっそりと笑った。
最初から、そうだった。この男は王妃を惑わし、情報を盗み、殺すための存在だった。そして王妃もずっと、少女が夢見る如く、その命ごと絶望に叩き落とす日を待ち焦がれてきたのだ。
「多くの男を従え、狂わせ、国すらも揺るがして。本当にあの女は――当代一の、非凡な売春婦でありましたこと」