愚民どもを調教調教!すべては可愛いあの子のため!
きゃははは!
クリス、それって洗脳って言うのよ?!
(by 亡霊姫★)
事が収まり、残るは後始末だけである。手始めに呼び寄せたのはシルビアだった。憔悴しきった表情の彼女を、王妃は心からの同情を浮かべて労い、気遣った。
「警備が行き届かず、あのような恐ろしい思いをさせてしまったこと……わたくし、心から恥じておりますの。皆様を喜ばせたい一心でしたのに、あのようなことになって、主催した者として申し訳ない気持ちでいっぱいです」
『きゃっはははは!さも自分は恐怖を与えてないみたいな言い草ァ!!喜ばせたいってツッコミ待ち!?っていうか謝るために呼びつけるって!』
「……あのような惨事、本当にお辛かったことでしょうね。けれど、貴女は確かにあの時選ばれたのです。汚れた手から逃れ、光の下で新たに生まれ直したのですよ」
『同情、称賛、制圧、口封じ、飴と鞭!!完っ璧!鬼畜詐欺師がここにいる~~!!』
うるさい亡霊姫は無視して、一心の同情を込めた顔つきで相手を覗き込む。
「ご夫君もどんなにかご心配なさったことか……お詫びと言ってはなんですが、ご実家の栄達はお約束します。わたくし、きっと、貴女の未来を守ります。その痛みも、涙も、決して無駄には致しませんわ。
ですから、ねえ――もう過去を振り返らないで下さいな?」
「王妃陛下……」
『もうクリスったら~そういうの洗脳っていうのよお?』
そう、洗脳だ。それこそが息子の立場を盤石にするため、最後に行うべき作業だった。敵を滅ぼした後の、これが最後の総仕上げだ。
王妃はそれから執務の合間に時間を取り、生き残った貴族の一人一人と謁見した。心的外傷に怯える彼らを相手に、王妃は様々に言葉を弄して、その心を操り、恐怖を忠誠に転化させて染め上げた。
「誰が正しいかではなく、誰が責任を引き受けられるか。それが国家というものです。私が何もせぬままであったら……ジディスレンが流す血の量は、今より遥かに多かったでしょうね」
「お辛かったことでしょう……けれど、それに耐えた貴方こそがこの国を担うに足るお方ですわ」
「これはただの粛清ではなく、選別でしたの。残るべき方を見極めるために。地獄を経た者こそ、天に届く――そう思いませんこと?」
「彼らがどれほど卑劣だったか、貴方もご存じでしょう?……忘れてしまいたい?いいえ、忘れてはいけません。あのままでは我が王子も、貴方の子供たちも、やがて争いの渦中に巻き込まれていたでしょうね」
「誰かが泥をかぶらねば、この国は変われなかったのです。わたくしがそう在ったように、貴方も……」
「ご理解下さい、とは申しません。けれど、理解できぬと声高に叫ぶのであれば――そもそも何故、今ここにいらっしゃるの?」
「苦しみの気持ちはお察しします。けれどそれを口にすれば、わたくしは貴方の未来を問わねばならなくなる」
「ええ、泣いて。何も恥ずかしいことではありませんわ。あなたは良く耐えました。よくぞ……生き残って下さいました」
「裁かれるのは罪故ではありません。相応しくなかった、ただそれだけのこと」
「わたくしは信じません、誰も。だからこそ……裏切りは、わたくしが定義するのです。わたくしの意志に従った者が正しい。そうでなければ国は乱れますわ」
「畏れているのですね。結構。その恐れが、貴方の忠誠の証となるのですから」