さあさあ、ここまで来たらもう誰にも引き返せない!!
物語の性質上、残酷な描写(流血を含む)が続きます。
苦手な方は、どうぞ無理をなさらず読み進めるかどうかご判断ください。
ご負担にならない範囲でお楽しみいただければ幸いです。
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さあ、地獄の宴の始まりよ!
クリス、あんたの本当の姿を見せておやり!!
(by 亡霊姫★)
最初に現れたのは鳥籠だった。高すぎるほど高い天井から、するすると降りてきた巨大なそれは、その場で最も大柄な男の少し上くらいで止まる。
中にいたのはフィオラであった。襤褸切れのような布を着て、全身傷だらけで憔悴しきっている。汗と血が浮かぶ顔には苦悶が滲み、かつての美貌の残滓を留めているだけに、その様は無惨なものだった。
「この方が誰であるか。どうしてここにいるのか――そんなこと、今更語るまでもありませんわね?それでは、始めましょう」
そして王母は合図を送り、もう一人囚人が場に引き出される。
かつて、王の小姓として信頼を得ていた青年であった。幼さを残していた紅顔は見る影もなく腫れ上がり、膨れ上がっていた。額は割られ、鼻は曲がり、両の目は潰されている。かつての姿を偲ばせるものは身にまとった衣服だけだった。
「この者は主君を裏切り、寵姫の手先となって杯に毒を盛りました。……何と悍ましいことでしょうか。
このような者がいたせいで、ジディスレンは堕落したのです。女一人でできることなどたかが知れたもの。国を脅かした罪は、彼女に操られた全ての者にございます」
ですから、殺さなくてはいけないのです。ひとりのこらず。散歩に向かう少女のような無邪気さで、王母はそう宣告した。その意向を遮れる人間はおらず、全てが決まった手筈通りに進められていく。
「……ごめん、父さん……フィオラ、様……申し訳……、……っ!……たす、けて……!」
カラフは詫び続け、最後の瞬間には救いを求めて、小姓の装束を血に染めて息絶えた。だが、本番はここからだった。
「……親愛なる皆様へ。わたくしからの、心ばかりの贈り物をどうぞ。味わって頂けたなら、赦しはその皿の上にあることでしょう」
王母の微笑みを合図に、次々と皿が運び込まれる。人と席次によって違った中身のそれらが、次々出席者の前に置かれていった。
「食事こそは、命の象徴です。生きたいと願う者が、それを口にできない理由などございますか?
…………それとも、まさかとは思いますが、命よりも大切な『忠義』でもおありなのかしら?」
微笑する王母の前には何も置かれない。ただ静かに扇を広げ、優雅に座って万座を見下ろしている。
そして、その近くに座るのは王妃派の者たちだ。彼らの前に置かれたのは、子供の手にも収まるような華奢な杯だ。入っている透明な酒もごく少量で、一口で飲み干せるだろう。
だが、彼ら以外はそうではない。王母から離れた席の者ほど、狂気に満ちたご馳走の大皿が供される。この上なく豪奢で、重厚な帝国料理が次から次へと饗される。
杯に注がれる酒は赤く深い、まるで鮮血のような赤ワイン――
「お残しになったら、どうなるのでしょうね。……残されたそれが、貴方方にとっての、最期の意思表示になりませんように」
そして王母は、ふわりと、花が綻ぶように笑った。
「さあ、召し上がって?」
凄まじい血の匂いと死臭。絶叫と断末魔と命乞いと罵倒と呪詛。それらを添えて、地獄の正餐会が幕を開けた。