絢爛なりし地獄の宴
ここから先は、物語の性質上、残酷な描写(流血を含む)が続きます。
苦手な方は、どうぞ無理をなさらず読み進めるかどうかご判断ください。
ご負担にならない範囲でお楽しみいただければ幸いです。
その日王宮では、大々的な宴が開催された。後の世において「狂母の聖餐」と称される歴史の一幕は、日が陰るにつれて静かな足音で忍び寄っていた。
制圧時の生き残りで、今日この場に集った者を許す。一切の禍根を水に流し、臣下として迎え入れると、そう通知された。そのため、欠席するという選択肢はなかった。
誰もが正装を義務付けられていた。場所は何度も寵姫によって華やかな宴が開かれた、宴会の大広間だ。一見してかつてと何も変わらぬ風情で、ただ不自然なほど静まり返っていた。
「本日はお集まり頂き、ありがとうございます」
現れた王母は、純白のドレスで着飾っていた。
百合の花弁のような薄絹が何枚も重ねられ、銀糸でびっしりと刺繍を施されている。
更に裾を降りるに連れ、雪の結晶のように繊細なレースが幾重にも連ねられる。目も眩むような贅沢な逸品だ。
その隣には車輪付きの椅子に乗せられた国王がいる。虚ろな目を彷徨わせ、ぴくりとも動く気配がない。
「新たな時代を迎えるためにも、我々は過去を水に流し、許しあわねばなりません。そのために、この席をご用意しました」
予想以上に穏やかなその言葉に、空気がほっと緩む。だが一部の者は、緊張に顔を強張らせたままだった。
「過ぎたことをいつまでも咎めては、前へは進めませんものね。
国の母たる者として、わたくしは寛容を尊びます。ですから今日この日、過去は全て水に流しましょう。すべて――この一杯の葡萄酒とともに」
それは優しく美しい声なのに、どうしようもなく不吉なものを感じさせた。更に何人かは顔色を変え、落ち着かない素振りで扉を見る。
「……あら、どうぞお座りになって。ご安心なさいませ、ここは祝宴の場ですわ。新たな時代の始まりを、皆様と迎えるための……ね?
そんな皆様にわたくしから、心ばかりのもてなしの品を用意しましたの」
それが、合図だったのか。重い音を立てて、大扉が突如閉ざされる。そして一人二人どころではない、武装した兵によって封鎖された。
退路を断たれたのだ。真っ先にそう気づいた貴族が、喉の奥で奇妙な音を鳴らす。
何が狙いだ?ここでジディスレンの貴族を一網打尽にするつもりか?だが――上座につく王妃派に目を向ける。
そうであれば、彼らまで同じ机に着く理由はない。彼らはあらかじめ知らされているのか、落ち着き払った顔を崩さなかった。寧ろこちらへ、はっきりとした値踏みと観察の死線を向けてくる。
いつの間にか入ってきていた兵士たちが、一糸乱れぬ連携で何かを組み立てていく。白いクロスをかけた巨大な机の傍に、一風変わった舞台のようなものが作り上げられていく。
「…………!」
誰かが細く悲鳴を上げた。大振りの斧だった。それが運び込まれた瞬間、奇妙な舞台は処刑場と化した。
そして始まった狂気の宴は、彼らの想定を遥かに超えたものだった。
ここからが王妃様の本領発揮です。「山の魔王の宮殿にて」を聞きながら作業しました。良ければBGMにどうぞ!