うーん熱演!!これが愛?痺れちゃうっ!!!
きゃははは、クリス、ここで「彼」を切り捨てるのね☆
さあ、これで舞台は整ったわ!
(by 亡霊姫★)
戦闘終了後、王妃の軍は王都に入場し、高々と勝利を宣言した。
王宮に踏み入り、残っていた者を拘束、場合によっては誅した。王母は拘束した寵姫とそれに従った者たちを投獄し、看守たちにはこう命じた。
「殺すことは許しませんわ。ですがそれ以外でしたら、どのようなことをしようと咎めません。恐るべき大逆者たちから一日も早く、少しでも多くの自白を引き出すことが、ジディスレンが平穏を取り戻す道なのですから」
王妃の軍を迎え撃った者たちの行く末は様々だった。戦死した者も、捕虜になった者もいる。
誰よりも多くを殺し、戦果を上げたランドルフは行方知れずとなっており、罰を与えることが叶わない。
王命を受け、指示を出したライエラ侯爵は、現在自宅での謹慎に入っている。跡継ぎがいる以上、家さえ守られれば良いという意向なのだろう。
信望も高い故に、助命嘆願がいくつも届いており、そうした者たちへの対処が真っ先に着手すべきことだった。王母は日々報告を受け、判断に追われていた。
薄暮の庭園に、淡い茜色の光がこぼれていた。風は穏やかで、鳥の囀りさえ遠慮がちに響く静謐のなか、彼は跪いたまま動かない。
「――どうか、お思い直しを」
やっと起き上がり、歩けるようになったレナートの声は、低く抑えられていた。顔にも姿勢にも、大きな火傷が残した影を引きずっている。だが、その奥には胸を焼くような必死さが見えた。
「肝心な時お役に立てなかった私如きが、今更何をとお思いでしょうが……どうしてもこれだけはお聞き届け頂きたい。確かに、彼女に罰は必要でしょう。けれど、死だけが罰ではありません。
王妃陛下の名がそのようなことで汚れるのは、復讐に染まったなどと囁かれるのは……私には耐えがたいのです……!」
王母はその言葉を、長いまつ毛の影に色を秘めて聞いていた。ゆっくりと呼吸し、咲きかけた薔薇のつぼみに指先を重ねる。
「貴女はそのような方ではなかったでしょう?異国で一人震え、傷つくことも傷つけることも怯えていらした。そんな貴女だから私は――」
「……それ以上、何も仰らないで」
囁くように返すその声は、震えているようにすら聞こえた。
「わたくしも……悩みました。幾度も夜を越えて考えました。ですが……いえ、いえ。最早何を言うこともありません。もう、これしか無いのです」
声が掠れ、肩がわずかに揺れた。やがて王母は、ほんのわずかに笑った。哀しみに彩られた、優しい笑みだった。
「……一番辛い時期を支えてくれた貴方にだけは、見せたくなかったのです。わたくしのこのような姿を。貴方は、誰よりも誠実で……この宮廷の中で、わたくしの尊厳を守ろうと戦ってくれた数少ない方。
だからこそ……少しの間だけ、離れていていただけませんか?」
その声音はまるで、愛する人を戦場へ送り出すかのような慈しみだった。誠実な忠義者を己の醜さの巻き添えにしたくないと、そんな心が溢れていた。聞き届けた騎士の頬を、夕陽の残滓が照らす。
「……畏まりました。全て、仰せのままに」
彼は立ち上がり、胸に拳を当て、深く一礼した。
「お身体だけは、どうかご自愛ください。――陛下」
去り際、王母の背に向けて、ほんの一瞬だけ騎士の表情が崩れかけた。それを見た者はいなかった。王母は薔薇のつぼみに指を添えたまま、遠ざかっていく足音を最後まで聞いていた。
やがて完全に消え去ると、何かを払うようにそっと扇子を閉じる。
「……そう。これで、終幕」
その呟きは風に溶けるほど微かだった。だが、近くにいた侍女の一人が、一瞬ぎょっとしたように振り向く。
「……何か?」
王母はにこりと微笑む。まるで先ほどまで涙をこらえていた少女とは別人のように、完璧な微笑だった。侍女は震える声を返す。
「いえ……何も。風が、冷たいだけですわ」
その夜、彼女は、書斎で一枚の命令書をしたためた。結局最後まで、哀れなほどに忠実だった騎士に、僻地での長期療養を命じるものだ。
部屋には香が焚かれ、静かに煙が揺れていた。王母は筆を置き、ゆるく笑う。
「……さようなら、素晴らしい献身でしたわ。けれど、終わった駒は盤面に残しておけませんものね」
その十日後、王母は歴史に名を残す盛大な宴を開いた。