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魔法の連鎖、つまり運命!動き出したら妾にだって止められないの☆

寵妃派の貴族がうごめいているわ☆

あら、これはまた、どうしようもない男だこと。

(by 亡霊姫★)

ファシド卿は数カ月ぶりの実家に向かいながら、先程見かけたヴァルネート侯爵夫妻のことを思い出していた。


現在王妃派の貴族は多くが王都を出ているが、あの家は逡巡しているようだ。

軽く立ち話をしてみたところ、適当な考えは概ね合っているようだった。



「これからこの国は、一体どうなってしまうのかと……」


「アーゼリット侯爵たちのように、迷いを振り捨てて進むのは難しいものですね」


……大方、勢いで王妃に与したは良いものの恐ろしくなってきたということだろうか。


この先勝利したとしても、待ち受ける未来は帝国に隷属されるのみなのだから、無理もないことだ。

腹を括って全面協力する気にもなれず、あんなところで引き伸ばしているのだろう。



彼は国の行く末に興味はない。

しかしそれを巡って右往左往する人間の顔は、それなりに面白いと思う。


玄関で使用人に言伝をして、手近な談話室に入って待つ。

程なくして母が巨体を揺らして突進してきた。

グラフィナ伯爵夫人は眉を吊り上げ、肉付きの良い頬を震わして息子に叫ぶ。



「貴方、どこ行ってたのよ!!この大変な時に!!

あの人は相変わらず食べてばかりで全く頼りにならないし!!」


「別にどこでも良いでしょう?」


市井の妾宅に入り浸り、王宮出仕どころかろくに家にも帰らなかった伯爵家嫡男は、何食わぬ表情で着席した。

それを母親も咎めなかった。

その後ろからは妻のシルビアがいたが、親子どちらも視線も向けなかった。



「そう仰る母上も、最近王宮に出入りなさっていないそうですが。

危うい状況にあるシェルベット伯爵夫人のお力にならずとも良いのですか?」


「そもそもあの女たちは気に入らなかったのよ。

どれだけ取り繕っても端々から下品さが滲

んでいたわ。

所詮男に取り入って、男の力を傘に着ることしかできない連中なのだから、当然と言えば当然だけど」


以前は散々持て囃していたというのに、不利になるなりこの言い草である。

だがそれが母という人間であることを彼は知っていた。


「シルビアも帰らないわ。どこで油を売っているのやら」


「……ああ、そう言えばいませんね」


「本当あれに興味がないのね。だから言ったのよ、あんな陰鬱で殻にこもった女など我が家に相応しくないと」


ほら見なさい、と言わんばかりの顔をされる。

さて、どうして結婚したのか――明確な理由があったわけではないので、それを聞かれても正直困る。


「あの女、例の火災以降行方知れずだそうよ。

焼け死んだという知らせは入っていないけど、生きていたとてどうでもいいわ。

それより貴方、王宮に行っていたの?」


「ええ、少々野暮用があって。

ご存知でしょうか?前神官長と会っていたのですよ」


帝国の貴族、それも神殿関係者ともあろう者が、この状況で王宮を闊歩していたのだから。

見かけた時は流石に目を疑った。

全く大した胆力である。亜麻色の髪の男は、笑ってこう持ちかけてきた。


「どうでしょう。ここは取引と行きませんか?」


だからちょっとした手引をしてやった。

これでも寵姫派の中枢に近しい伯爵家であるから、今の王宮でもそれなりに顔が利く。

「あら。いつのまにそんなのとつるんでいたの?」


「シェルベット伯爵夫人の神殿弾圧が始まる前ですが、まあちょっとした親交があったんですよ。

ふとした成り行きで金を貸したくらいのものですが」


現在、フィオラの立場は非常に苦しい。

王は病床に臥し、王妃と王位継承者は軍勢を率いて王都に迫っている。

しかも貴族の半分以上はあちらについている。


こうなった以上、現実的かつ実行可能な有効手段はそれほどない。

その一つがパエルギロ公を人質に取るというものだ。

そうして王妃を牽制して時間を稼ぎ、何か事態が変化するのを待つか、新たな手を考え出すしかない。


それでも、絶体絶命に近い状況だ。

あの生意気な女も流石に取り乱していることだろう。

その醜態を見に行ってやるのも悪くない。


彼は宮廷闘争などに興味はない。

しかし家が潰れるのは困りものだ。

寵姫が不利に傾いた盤面で、彼女に近しい家は、今まさに生存力を試されていると言って良かった。


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