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第33話 王城襲撃

 某日。

 私は陛下の居る王城に足を運んだ。

「陛下、突然の謁見をお許しください」

 私は綺麗なカーテシーをみせる。

「勿論だとも、クロエ夫人。ところで、公爵殿は何処かな?」

 まるまると肥えた体は、私の目を汚すようだ。

 とっとと話を進めよう。

『……クロエ、貴様正気か? そんなことしたら、貴様は……』

「まあ陛下、良いではありませんか。こほん。では、改めて。王の座を頂きに参りました」

 私は優しい笑顔を繕う。

 陛下は理解出来損ねたらしく、私に問いかける。

「夫人、どういう意味だね? 我が王位を公爵殿に譲る、と?」

 もう、理解力無さすぎ。

 簡単に説明してあげましょうか。猿でもわかるように、ね。

「譲る、というよりも、ただ空いた席に座る、という表現の方が正しいですわ。そう、こんな風に」

 私の背後から、魔獣が現れる。

 この子は私の使い魔であり、漆黒の獅子。姉を殺す時に召喚して以来、ずっと私の使い魔となってくれている。

 獅子の名前はシャルベーシャ。神獣だ。

「……馬鹿、な」

 陛下はそう言い残し、向かってくる獅子に食べられてしまった。

 周りにいた騎士は、私に矛を向ける。

 ああそんな、私は悲しいです。

 そんな悲しさを捨て、私は陛下の座っていた玉座まで近づき、そしてゆっくりと座った。

 そこはまるで、元々私のために作られた空間かのように居心地が良かった。

「……さ、やっておしまいなさい」

 静寂の中、私がそう一言発すると、シャルベーシャは騎士に向かって咆哮を。

 それが戦いの合図だったようで、シャルベーシャは爪を立てた。

 騎士達は必死に抵抗するも、あっという間に殺された。

「……ふふふ、あははははは!」

 ああ、なんて愉快。

 これほど愉快なことならば、もっと前からやっておけばよかったと後悔してしまうほど。

『クロエ、横じゃ。弓を向けられておる』

「ありがとうございます、ファーフ」

 私はノールックで魔法を使用し、弓使いの頭を風魔法で裂いた。

「……で、ファーフって私の味方なんですか?」

 私は悲鳴や金属音をバックに、ファーフに質問した。

『ああ。じゃが、カレオスを洗脳した事に関しては、きっといつか罰を与えてやる』

「……そうですか。それは、どうも」

 続けてファーフはこうも言った。

『ワシからしてみれば、貴様らはワシの子どものようなものじゃ。弟子を嫌う師匠なんかおらん。この世のどこにも、な』

 嬉しいような、照れるような。

 かれこれファーフとは、もうすぐ十年の付き合いとなる。

 病める時も健やかなる時も、ずっと彼女とは一緒だった。

 離れたいだなんて、一切言わなかった。

 私はそんなファーフが大好きで、守ってくれる母のようなファーフも大好きだ。

「大好きですよ、ファーフ。こんな私に付き合ってくれて、ありがとうございます」

『……まあ、約束があるからな。それに貴様の成長をすぐそばから見ていたのじゃから、親のような感情になるのも無理はないじゃろう?』

「……ふふっ、ありがと。お母さん」

 母、か。

 そういえば、言ったことなかったな。

『だ、誰が母じゃ!』

 ルークも、ファーフも、手放したくない。

 ずっとこのままでいたい。

 今のまま、こんな平和な世界で一生──。

「そこまでだ!!」

 玉座に響き渡る怒声。

 私は声の持ち主を視界に入れた。

「──ルー、ク?」

 私は目を見開き、その事実を脳に焼き付ける。

「……クロエ、か?」

 甲冑を纏ったルークも同じく、動揺していたようだった。

 そこには、騎士団の見知った人達がいた。

「ルーク。ああ、来てくれたのですね。よかった。早くあなたにこの光景を見せてあげたかったので、ちょうど良いです」

 黒獣は、戦闘をやめて私の元へとのそのそ歩く。

 そして玉座の隣に座り、毛ずくろいを始める。

「その獣は、一体……?」

 ルークは私に問う。

「この子ですか? この子はシャルベーシャと言って、私が召喚したんです。あ、そういえば、名前を考えていませんでしたね……」

 ずっと種族名で呼んでいたから、名前なんか考えていなかった。

 せっかくなら、可愛らしい名前をつけてあげたいとは思う。

「……ふふっ。なんだかわくわくしませんか? ルーク。まるで私達の子どもの名前を考えている様で、楽しいですね!」

 私は玉座から立ち上がり、ルークのもとへと歩み寄った。

 陛下の体を跨ぎ、ヒールを鳴らしながら。

「そうですね、まあシャルと呼びましょう。そんなことはいいんです! まず、どうしてあなたがこんなところにいるんですか?」

「……任務だ。だが、お前は……」

 ルークは私から目を逸らす。

 逸らす、だなんて。

「こっちを見て、ルーク。ほら、私は変わったんです。あなたと同じように剣を持ち、戦うことだってできる」

 私は彼の頬に手を添え、こちらを向くように言った。

 もっと私を見て欲しい。すごいと褒めて欲しい。非力だった私が、こんな凄いことを成し遂げたのだ。妻を褒めない夫なんて、どこにいるだろうか。

「……触るな」

 私は腕をはじかれた。

 彼は私を、否定したのだ。

「……ルーク?」

「俺の名を呼ぶな! この魔女め!」

 ルークの怒号は、私の耳を劈く。

 その瞬間、私は居場所がなくなった。

 彼の言葉は氷よりも冷たく、瞳は刃物よりも鋭かった。

 それに耐えられなくなった私の心は、涙を流して感情を脳に伝える。

 死ぬ時よりも、嫌な気持ちだ。

「どうして、どうして? 私、あなたをこんなにも愛しているのに!」

 私は泣き叫ぶ。

 雫は床に落ち、弾けた。

「陛下の仇だ。悪く思うな」

 ルークは剣を振り上げる。

 あとは下ろすだけで、私を殺すことが出来た。

 なのに彼は、動きを止めた。

「……無理だ。俺には、出来ない……」

 ルークは腕をおろせば、力が抜けたかのように剣を手放した。

 ああやっぱり、私のことが好きなんだ、このひと。

「……俺を殺せ、レイン」

「何を、言って──」

「いいから殺せ」

 爽やかな水色の髪をしたレインは、戸惑いながらも隊長の意向に従った。

 剣を振り上げ、勢いよく振り下ろした。

「……ダメですよ、レイン。いけません」

 レインの腕は、宙を舞う。

 剣が握られたまま、後ろに飛んでいったのだ。

「ぐっ、あぁぁあ!」

 残念なことに、肘から下が無くなってしまったレイン。

 当たり前でしょう。悪いことをしようとしたのだから。

「いくらレインだからといって、それは許容できません。あなたはいつから、そんな悪い子になったのですか?」

 帝国内でトップレベルに強いと称された彼らは、私を見て怯えていた。

 希望に満ち溢れているこのお城で、私はただ、可愛げに微笑んだ。

『……本当にいいのか?』

 ええ、いいんですよ、ファーフ。

 そろそろ断捨離の時期だと思っていたんです。

 

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