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School

俺の好きな彼女はもういない

作者: 虹彩霊音
掲載日:2023/03/03


後悔っていうのは誰しも一度は経験することだ。


だから、俺はこう質問しよう。


その選択を、心の底からやり直したいと思ったことはあるか。


俺はある。


たった今、そう思ってる。




夜道、歩き慣れている道ではあったが未だに慣れないんだ。


「…………幻」


俺はそっと名前を紡ぐ。


でも、答えは返ってこなくて、ただ俺の声が反響しただけ。


幻は俺の彼女()()()人。


今はもう俺の彼女ではないからな、過去形だ。


別れた、といえばそうではない。


あれは、俺が幻を好きになったから起きた悲劇だ。








「えっと……その」


「どうした?」


おどおどしている幻に俺は声をかける。


「最近…帰り道が怖いんだ」


「君でも怖いものあるんだな」


「あるに決まってるじゃん!なんだと思ってるの!」


「彼女、それか将来の妻」


「いや、まぁそうだけど!って、こんなこと話してる場合じゃない」


「そんなに慌てて、君らしくないぞ」


「なんか……視線を感じるんだよ。でも振り返っても誰も居ないんだ……それがものすごく怖いんだよ……」


「ホラーかよ」


まぁでも、そんなこと起きたら誰だって怖いよな。


「んじゃまぁ、いつもはここで別れてるわけだが、家まで着いていってほしいというわけか?」


「うん……お願い。そっちの方が助かる」


安心した顔をする幻。


「本当は今日からやってやりたいところだが、生憎とバイトが入っててさ。悪いな」


「あー、それは仕方ないか。明日からでいいよ」


「ごめんな」


「ううん、突然言った私が悪いし。それにしても貴方……本当に私が彼女で良かったの?姉さんだって候補にあったでしょ?」


「誰を好きになろうが勝手だろ」


「じゃ、私のどこが好きなの?」


「どこなんだろうな」


「曖昧じゃない、ぷー」


「いや、どこが好きだなんて明確に言いたくないんだ。例えば、俺が君の脚が好きだと言う。だったら好きなのは君の脚限定になる、俺はそんなの嫌だな。こういうのは曖昧な方がいいんだ、好き嫌いは直感で丁度いい」


「なるほどー」


そんなこんなで別れの分岐点がやってきた。


「ここまでだな」


「そうだね、また明日」


「気をつけろよ、雨も降ってるから」


「うん!」


幻は帰路につく直前、頑張って背伸びして俺の顎下にキスをした。


「ばいばい!」


とてとてと走っていく幻を見て、俺はバイト先へ向かった。




…………次の日、幻は学校に来なかった。




「はぁ…はぁ…!!」


俺はバイト終わりに一通のメールに気づいた。幻の姉ちゃんからであった。俺はメールの内容を見た瞬間、仕事着のまま飛び出して幻の家に向かったのだ。


「………!!!」


幻の家につく少し前、二人はそこにいた。


「幻の姉ちゃん……幻は……」


姉ちゃんはぐっと、幻を抱きしめていた。何故か幻の服はズタズタで、紅色に染まっていた。


「……幻は……死んだ」


「え………」


幻に異常な愛を持った輩が居たらしい。そいつは俺と幻が付き合ってることが気に食わなかったらしい。まぁ、よくあるよなこういう展開。まさかほんとに起きるとは思わなかったが……


そいつが、幻を殺したんだ。


意味がわからない、殺すこたないだろうが。


「………………」


二人は雨でびしょ濡れだった、姉ちゃんは寒そうな素振りを一切せず、ずっと幻を抱きしめていた。


「……あ」


よく見ると、姉ちゃんの手は鋭利な物で切られたような痕ができていた。もしかして、その輩と争った際にできたのだろうか。


「………あの子だけじゃなくて……この子も失ったのか……私は……」


…姉ちゃんには二人の妹が居た。もう一人の妹は寂滅という。寂滅はしばらく前に病気で死んでしまったという。


「………エルドラド」


「………なんだ」


「…少し物を取りに行ってくる。幻をお願い」


「…わかった」


姉ちゃんから幻を託される。雨で濡れてこそいたが、幻の顔はいつものように白くて綺麗だった。


「幻……痛かったよな……寒かったよな……」


……どうして、幻が死ななくちゃいけないんだろう。



しばらくして、姉ちゃんが何かを手にして戻ってきた。


「それは?」


「…これは『黄泉帰り時計』っていう懐中時計だよ。過去に黄泉帰る、つまり時を戻す代物だ」


「…こんなこと言うのもあれだが、胡散臭いな。本当に出来るのか?」


「出来たから言ってるんだよ」


「…………え?」


まさか、姉ちゃんは………


「ほら、エルドラド。早く使うんだ」


「……えっ、どうして俺なんだ?」


「私はもう過去に縋るのはやめた、この時計を使うのをやめたんだ。それに、貴方と一緒に居る幻はとても幸せそうだった。だから、貴方に使ってほしい」


姉ちゃんは悲しい決意の顔をして、俺に時計を差し出す。俺はその時計を受け取った。


……でも、ごめんな姉ちゃん。俺は姉ちゃんが思っているような選択肢は選ばないよ。



『……幻と出会う前までに戻してください』



瞬間、視界が暗転する。平衡感覚が無くなる。しばらくして、落下しているような風を感じた。



やがて………




「…ここは」


気がつくと、目の前がピンク色に染まっていた。桜だ、確かさっきまで秋だったはずだが。


「………はっ」


どうやら、本当に俺は過去に戻ったらしい。だとすれば……俺は階段を上る。そこに、彼女達が居た。


黄泉 幻とその姉である叡智と寂滅。


俺の彼女だった人。俺の義理の姉だった人。


抱きしめたかった、でも無理だ。


彼氏彼女どころか友達ですらないんだから。


そして、もう付き合えない。俺に関わったら幻はきっとまた死んでしまうから。


俺は彼女達に気づかれないように上る。ここで出会ったんだ、仲良くなって気づいたら惚れ惚れしてたんだ。そうして関係が発展していったんだ。


これは分岐点だ、幻が俺の彼女になるか否かのな。


答えはもちろんノーだ。


幻が生きている喜び、そしてもう彼女として扱えない悲しみ。右往左往で心が忙しい。


やめろ、思い出すな。幻との思い出が蘇る…!!耐えろ、思い留めろ!!



「……大丈夫?」



彼女に声をかけられた。入り混じった曖昧な感情が俺を取り巻く。


「え……あ……」


「下向いてて辛そうにしてたから」


「ああ、俺らしくないよな」


俺は顔をあげる。


「…どうしたの、なんで泣いてるの?」


「大丈夫だ、なんでもねぇから……」


「……もしかして、彼女さんと別れた?」


「…ああ、とっても大事な恋人とね」


「そっか……それは、ご愁傷様。でも、そういう時こそ前を向かなきゃ」


「そうだな、助かったよ」


「何もしてないけどね」


「ああ……君に言われたから、頑張れるよ」


「…………ん? それって……」


「じゃあな」




彼女に前を向けと言われたから、俺は前を向く。


でも、話せて良かった。話せたから俺は前を向けているんだ。


だから……


「さようなら、俺の大好きな人」


この涙は決して恥ではない、そして俺はこれを乗り越えて新たなスタートを踏み出すのだ。




誰しも、やり直したいことはあると思う。もし、戻れたとしてもひとつだけ聞いてほしい。


過去と今はまったく別物ってことだ。


過去ばかり囚われてちゃいけない、前を向かなきゃならないんだ。


もう俺の隣に彼女はいない。でも、俺は君が幸せに生きているのならそれでいい、それが俺の幸せだ。


だから…さようなら、幻。俺は君が幸せに生きていくことを、心から願っているよ。





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