ギルドに行こう!
ギルド編開幕です
日も随分と高くなり、時間は正午を回ろうとしていた。
すでに、王宮を出発してから四時間が経過しようとしていた。
だというのに、俺たち一行は一向にギルドに到着する気配はない。
どうしてこうなった……まあ理由は単純明快なんだが。
数刻前に時は遡る。
『で、パーティー名はどうする?』
そう、この俺の一言が余計だったとは、この時思いもしなかった。
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「で、パーティー名はどうする?」
やっぱり、かっこいいパーティー名は必須だと思うんだよね。
「ん? 『どう』とは?」
「いやさ、いまのパーティー名は仮称【Cパーティー】だろ? このままじゃギルドでパーティー名を登録するときにその場で考えてたら時間がかかるし、なによりかっこ悪いだろ? だから、今のうちに決めてしまおうかなって」
「そりゃあ、お前、【カズヤと愉快な仲間達】に決まってんだろ」
よし、こいつは無視していいな。
「カズヤ、次余計なこと言ったら、私の薙刀が火を吹くわよ」
あ、これガチのやつだ。ハナがカズヤのことを『井上君』じゃなくて『カズヤ』って呼び捨てした時、というか、他人を呼び捨てで呼んだ時は、だいたいガチギレの時だった。
また、五歳の時の悪夢がよみがえる。それはそれは恐ろしく……あ、やべ、ハナがこっち見た。
「ま、まあハナ落ちつけよ。カズヤも本気じゃないだろうし」
「う、うむ。まさか本気でこんなことを言うわけがなかろう」
「ほ、ほら、カズヤ君も本気じゃないよね?」
「お、おう。ちょっと場を和ませようかな―なんて。ははは」
俺、ハルユキ、アカギ、カズヤの見事な連携によってこの場は事なきを得た。
「そう、ならいいわ。ただし、次は余計な事を言わないようにね? 分かった?」
『分かった?』がものすごいドスの効いた声だったが、事なきを得た……よな?
「じゃあ、気を取り直して。パーティー名でも決めようよ。んー、あそこの噴水がある広場のベンチにでも座って話そうか」
アカギ、ナイス。よく話を変えてくれた。
「よし、ではここからは、私アカギが司会を務めさせていただきます」
おー、それっぽい。
「では、まずカズヤ君何か案はありますか?」
「そーだなー、幻影旅だ……じゃなくて、【光の手】とか? まあ、おれが能力“光魔術”を持ってるって理由だけだが」
カズヤが言いかけたのは恐れくあれだろう。言わなくて正解だったと思うが。そもそもあれって盗賊集団の名前じゃなかった?
しかし【光の手】はなかなかセンスがいいじゃないか。
「では、次にツグミ君」
「【桃園結義】とか? 要するに、【桃園の誓い】だよ」
全員兄弟みたいなものだし、割といいんじゃなかろうか。
「では、ハルユキ君」
「うむ、では【虚ろなる幻影】などはいかがかな? それっぽいであろう?」
どこから“虚ろ”とか“幻影”とか出てきたかわからないけど、響きはかっこいいじゃないか。
俺の心の内に秘めたる、中二心が刺激されるぞ。
「じゃあ次は僕がいこうかな。そうだなあ、カズヤ君、ツグミ君、ハルユキ君、ハナちゃん、僕のパーティー名か。それじゃあこんなのどうかな? 【春一番】とか。ほら、春幸君とか花ちゃんから春っぽいし、鶫君とか僕の鷺とか、和哉君の和とか、日本っぽいでしょ? それに春一番ってその年に一番早く吹いた突風のことを言うんだって。進んでくって感じがしてかっこよくない?」
【春一番】か。良いじゃん。かっこいい。
「ごめん、長々としゃべっちゃったね。ハナちゃんは何かある?」
「そうねえ、【竜の牙】とか?」
そうだった、忘れてた。ハナも割と中二病なところがあるんだった。でなければ【竜の牙】なんて言わないだろう。そういう意味では、ハルユキとどこか似ているところがある。
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とまあ、こんな感じでみんなで意見を出し合って、議論に議論を重ねた結果、数時間たっていたというわけだ。町の人からしたら、広場の一角を占拠され続けて、さぞ迷惑だっただろう。
とまあ、それはさておき、数時間の議論の末に決まったパーティー名が、【訪ね人】である。
『どうせこの世界の人から見たら訪ね人なんだし、これでよくない?』ということになったのだ。
まあ、かっこいいからよし。
ということで、無事にパーティー名も決まったので、ようやく冒険者ギルドに向かうことができるようになった。
「ようやく決まったよ。よし、じゃあ冒険者ギルドに向けて出発!」
「おいちょっと待て、ツグミ。お前場所わかるのか? 分かっていたとしても、方向音痴のお前が迷わずにたどりつける確証がどこにあるんだ?」
ぐっ、カズヤの正論が心に突き刺さる。ここは何とか言い返したいところだが、なにも返す言葉がない。
「はあ、そんなことだろうと思ったよ。よしお前ら、ちょっとここで待ってろ。町の人に場所聞いてくる」
あれ、でもミソナさんがいるんだから、ミソナさんに道聞けば道わかるんじゃない? あ、もう行っちゃった。
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待つこと数分。
「待たせたな。この人が道案内してくれるってよ」
「おう、そうか。それよりもさ、ミソナさんに道聞けばよかったんじゃないのか?」
「ああ、それな。王宮出発する前に、一応場所の確認をしようと思って聞いたんだけど、商店街以外の場所はあまりよくわからないらしい。それに今日は、夜まで仕事があって合流が難しいみたいだからさ」
あ、もうきいてたのね。行動が早いこと。それに、城を出た後からミソナさんの姿が見えなかったのはそういうことだったのか。てっきり、離れた所から見守ってくれているものかと思ってた。
「あの……もう大丈夫ですか?」
「ああ、すいません。案内してもらえますか?」
しまった。案内してくれる人そっちのけで話し込んでしまった。
というか、この人かわいいな。蒼髪のショートヘアで、翡翠色の目、透き通るような白い肌。完璧な美少女だ。
「とはいっても、ここからは割と近いんですよ。歩いて五分くらいですかね」
「へえ、そうなんですか。このあたりに詳しいんですか?」
「ボク……じゃなくて私はこのあたりで情報しゅ……じゃなくて散歩するのが好きなので、この辺のことはよくわかるんですよ」
いま『ボク』って言ったよね。まさかのボクっ娘来ましたか。この顔でボクっ娘は反則でしょう。て言うか本当にボクっ娘て存在してたんだ。
とまあ、そんな他愛もない会話をしながら五分ほど歩いていると。急に案内してくれた娘が立ち止った。というか、名前聞いてなかったな。なんて言う名前なんだろうか。
「此処です。此処の建物です」
でかっ。一軒家五、六軒くらいなら余裕で建つ敷地に、三階建ての建物が堂々と建っている。
そのとなりには、小学校の体育館くらい大きさの、訓練場? 解体場? のような建物も建っている。
「じゃあ、お兄さん、お姉さん頑張ってくださいね。あ、あと受付で私の名前を出してください。あ、名前行ってませんでしたね。ボ……私、ククルって言います」
へえ、ククルっていう名前なんだ。かわいい名前。
「ククルさん、案内ありがとうございました」
あ、ハナに先に御礼言われた。俺も言わなきゃ。
「ありがとうございました」
「いえ、とんでもない。少し気になったので声をかけただけですから。では、またあとで」
よし、別れの挨拶は済ませた。ギルドに、いざ参らん。
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