The Other Side (Side:ハナ)
三日目です
「ここは……花畑?」
「目が覚めたようね。いらっしゃい」
女の人? 綺麗な人。何でこんなところに。私の夢の中じゃないの?
「ふふ、可愛らしいわね。貴女はここに特訓しに来たのでしょう? ククルから話は聞いてるわ。早速始めましょうか」
「あの、少し聞いてもいいですか」
「ええ、どうぞ。時間はたくさんあるから好きなだけ」
「不躾ですが、貴女は?」
「そうね。言うなれば貴女の先輩、とでも」
私の先輩。恐らく日本に居た頃のではないでしょうね。こんなに綺麗な人なら覚えているはずだもの。
そうなると、この世界の人。
召喚者か、“聖女”のどちらかでしょうね。
「そうですか。ありがとうございます。もう一つだけいいですか?」
微笑み、これは肯定でしょう。
「何故こんなところにいらっしゃるのですか?」
「さっきの質問の答えと、私が最初に言ったことを繋げてみて。聡い貴女なら、もう気がついているんじゃない?」
そうか。この人は恐らく、ククルさんと関わりがあった人。それを、ククルさんの能力で私の夢に干渉して師事させようということね。
「さあ、始めましょう。と言っても、私が教えられることはそんなにないのだけれど」
「よろしくお願いします」
どんなことを教えてもらえるのでしょう?
「じゃあまずは、恋バナでもしましょうか。貴女、想い人はいるの?」
「ふぇ?」
な、な、なんですって? 想い人? 驚きすぎて、うら若き乙女にはあるまじき声が出てしまった。
「フフッ、初心ね。可愛らしい。私もそんな頃があったわ。いい? “回復魔法”と言うのは想いが糧になるの。その人を救いたい。その人の助けになりたい。そう願うほど効果は高くなる。時には死者をも蘇らせるほどよ。ほら、貴女にもいるでしょう? 命を懸けて助けたい。生涯を共にしたいという人が」
想い人と言うと、アイツかしら。アプローチを仕掛けても気が付かない振りをするし、受け入れること事態を避けているみたいだし。
「居なくはないですけど……。相手が気が付いてくれないと言うか、なんと言うか、受け入れることを拒否しているみたいで」
「あら、どんな人なの?」
「幼馴染みなんですけど……」
「甘酸っぱいわね。押してだめなら、引いてみてはどう? 相手の態度も変わってくるかもしれないわよ」
そんなものなのかしら。ここを出たら、少し変えてみるのもアリかもしれない。
「私の話も聞きたい?」
「ええ、是非」
「では、私の身の上話から。あれは、もう数百年も昔。私は教国の孤児として、孤児院で生活していたの。教国だから、当然のようにレスミン教会の修道女になるべく教育を施されていた。十歳になった頃、職業を診断することになったわ。そこで、“聖女”になった私の生活は一変した。されるがままに権力者に祭り上げられ、私の立場は、ただの孤児から教国の象徴にかわった」
「しかし、それまでだった。立場があるというのは、ないこと以上に厄介ね。神格化された私は、本来救うべき民草に関わることを許されず、王族のような権力者ばかりを癒し続けたわ。戦争にも駆り出された。本来平和を説くはずの教会が戦争をしているんだから荒唐無稽な話ね」
ナポレオン然り、プロセイン然り、過ぎたる力を持つものたちが戦いのなかに身を落とすのは日本でもよく聞いた話ね。
「そんな頃、人類の共通敵として魔王が現れた。私は、勇者パーティーの一員として招集された。そして、そこで初めて恋という感情を知ったわ。同時に、教国への不信感も抱いた。だって、魔王を討伐したら自分の国に殺されそうになるのよ。誰だって同じだったと思う」
そうか、力を恐れた教国は制御が利かなくなることを恐れたのね。
自国を守るために戦ったのに、その国に命を狙われる。これほど辛いことはない。
「だから私は、聖女を辞めたの」
「聖女を、辞める?」
「そう。とはいっても職業としての“聖女”は辞められないわ。だけどね、立場としての聖女ならいくらでも辞める方法はある。最初に考えたのは教国を滅ぼすこと。でもこれでは、私がやっていることは魔王と変わらない。でね、もう一つは一夜の契りを交わすことよ」
一夜の契りって、もしかしてアレよね……。
「あの、それって……」
「ええ、そうよ。貴女が想像している通り。これで私は修道女ではなくなる。そうすれば聖女じゃなくなるわ」
だ、大胆ね。
でも、きっとそれが最善だったのよね。
「目論見通り、その事実が明らかにされ、私は聖女でなくなった。こんなところかしら。身の上話の方が多かったわね。なにか聞きたいことはある?」
「その方とは、その後どうなったのですか?」
「子供を授かって、山奥で隠居していたわ。幸い、レスミン教会の連中に見つかることもなかったし、定期的に勇者パーティーのみんなで集まっていたから寂しくもなかったわね」
幸せそうな生活が送れたみたいでよかったわ。
「さあ、この話はここでおしまい。そうしたら、もう一つ貴女に伝えたいことがあるの。聞いてくれる?」
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