蠢く悪意
あけましておめでとうございました。
一日に投稿しようと思ってたのに1周間も遅れてしまいました。
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ある国のある一室にて、三人の人間が会合をしていた。
部屋には暖炉が一つ、そして円卓と椅子七脚があるのみであった。
壁には、暖炉の火により映し出された影が揺らめいていた。
「して“弐席”、首尾は?」
三人の中で、最も豪華な造りをした服を着た男が尋ねた。
「上々でございます、“壱席”様。子飼いの者からも吉報が挙げられております。」
“弐席”と呼ばれた、最も老齢の男が答えた。
「そうか……。忌々しいギルドめ、あ奴らがいなければ計画はもっと早く成就したものを」
「左様ですな、何度我らの計画が阻まれたことか。しかし、それも今回で終わりです」
豪華な造りをした服を着た男――“壱席”と呼ばれた男の呟きに“弐席”が答えた。
「へえ、終わりですって? どうしてそう思うのかしら?」
この場における紅一点が尋ねた。
「“参席”殿、礼儀がなってませんな。このような場にはふさわしい言動というものが――」
唯一の紅一点――“参席”に対して、“弐席”は嘲るような口調で話しかける。
「“弐席”、止せ。そのものには自由にさせるのがよかろう」
「ですが“壱席”様、このものは――」
「止せ、と言ったのが聞こえなかったのか? それとも、真に礼儀のなっていないものはお前か?」
“壱席”が静かに、そして怒りを孕みながら言った。
「失礼いたしました、出すぎた真似をいたしました」
このやり取りのみで、支配者と被支配者が明確に分かれた。
それは王と奴隷のような、或いはそれ以上の隔たりを感じさせるものであった。
彼らの言動からわかるように、もとより数字が若い者の方が位が高い。しかしこの隔たりには、それだけでは説明できない何かがあった。
「分かればよい。私はもうゆくが、その前に一つ伝えておかなければならないことがある。召喚された者たちの中に道化師がいたぞ。それだけだ。あとは“弐席”、“参席”に事の顛末を伝えておけ。よいな?」
「承知いたしました」
(何ということか、これでは計画に支障が出かねない。早急に対処せねば)
“弐席”は“壱席”から告げられた事実に驚きつつも、表面上は平静を保ったまま“壱席”が部屋を去っていくのを見送った。
「では“参席”殿、私たちが何を目的として活動しているのかはご存じですよね?」
「ええ、勿論。“参席”という誉れある地位を賜っているのですから、当然じゃないの」
“参席”は何を今さらと云った表情を浮かべ、言った。
「では、その目的とはなんでしょうか?」
「それは、主レスミン樣の復活でしょう?」
「ええ、その通りです。ですがそれは、教団設立以来数百年為し遂げられることはなかった。理由はただ一つ、私たちの計画の要である、魔王が勇者によって倒されてしまったからです」
“参席”は驚いた。教団が神敵として定めている魔王が、自分達の計画の要となっていたのだから。
「ならば何故、魔王を我らに友好的なものとして受け入れないの? 受け入れればもっと楽にことが成就できるでしょう?」
「ええ、その通りです。ですがしないのではなく、できないのです」
「できない?」
「はい。理由は主に三つあります」
“弐席”は指を三本立てた。
「一つ、教団が世界平和を謳っていること。二つ、人類の共通認識は魔王が人類の敵であること。三つ、魔王の考え方は主の考えに反すること」
“参席”はしばしの間考え込んだ。
部屋には火の爆ぜる音のみがした。
「……分かったわ。でも、いくつか聞いてもいいかしら」
「ええ、構いませんよ」
「そう、じゃあ一つ目。さっき“壱席”様がおっしゃっていた『忌々しいギルド』というのは? なぜギルドが関わってくるのかしら」
“参席”は自分のなすべきことを明確にするために、なるべく情報を知っておくべきだと考えた。
「ギルドがこの国のみならず、世界中に影響力を持つ超国家組織だからです。彼らの方針は魔王討伐による世界平和。これは各国の首脳陣や、教団の表向きの考えとも一致します。加えて超国家組織故の情報網。これらが合わさることによって、国や教団の動向は常に監視されているようなものです。だから不用意に動けないため、水面下で長い期間をかけて計画を遂行してきたわけです」
「なるほどね。じゃあもう一つ道化師というのは? “壱席”様がわざわざ情報を伝えてくださるのなら、なにかあるのよね」
“参席”は“壱席”がわざわざ触れた道化師というものに興味がわいた。
「道化師というのは職業の一つです。過去に確認された例は表向きにはなし、文献も消しています。しかし実際のところは一件のみ存在しました。それが五百年前勇者として活動した者の職業です。彼の者の力は強大すぎた。この世界を崩壊させかねないほどの強大な力を得てしまう前に排除したのです。しかし、今回二件目が確認された。教団に引き入れるか、はたまた不穏分子として排除するか。いずれにせよ無視できない存在であることには変わりありません」
「……なるほどね。じゃあ、あと二つ、魔王の役割とは何なの? そして、『もう終わり』というのはどうして?」
“参席”はこの二つは重要だと考えた。拒まれても聞きだすまでは、この場にとどまり続けるつもりでいた。
「では、まず一つ目の質問から答えましょう。魔王が何故、魔王と呼ばれているかご存知ですか?」
「魔族を束ねる王だからでしょう?」
“参席”の考えは半分正しく、半分間違っていた。
「おおよそ正解です。ですが一つだけ訂正しなければなりません。魔王というのは厳密に言えば職業のひとつです。そして魔王の職業を得たものが魔族を束ねる王となるのです。そして教団が魔王を必要とする理由は、その職業が目的となっています。レスミン樣の復活には、“王”の名を冠する職業の因子が必要となってきます。現在手に入れた王の因子は、“聖王”、“武王”、“賢王”の3種であり、現在の時点で足らない王の因子が“魔王”のみとなっています。しかし魔王の因子が教団の手に渡る前に勇者によって討伐されてしまっては、王の因子が揃わないのです」
「王の因子というのは?」
「現在のこの世に存在する職業の大本となったレスミン樣によって創造された、最高位の職業です。これ以外は劣化版とも言えます」
この世の始原たる四種の王の名を冠する職業。
これは“弐席”の言うように、神レスミンによって創造された。
そしてこれらの職業を与えられた四人が悪魔族、天使族、真人族、真獣族の始祖となった。
彼らの子孫が堕落や交配を繰り返した結果が、現在の多種多様な種族となっている。
そして職業とは、彼らの特性や能力を個人にあった形で使用するための肉体改造である。
そして、肉体が成長すれば職業も成長する。
時に、人智を超えた成長を遂げることもある。
それこそが――
「では、『もう終わり』とは?」
「先程、ギルドの邪魔によって計画がなされなかった、と言いましたね?」
「まあ、大体そんなことを言ってたわね。それがどうかしたのかしら?」
「私たちは一つ策を立てました。ギルドが駄目ならば、ひとつの国を傀儡にしてしまえば良い。そうすれば怪しまれることなく魔王の因子を手に入れるための強力な戦力、異世界人が手に入る、と。しかしこれだけでは足りません。如何せん異世界人には戦いを拒むものが多い。そこで“伍席”を宰相として送り込みました。“伍席”は精神魔法に長けています。歴戦の“王”ならばともかく、戦いの“た”の字も知らぬような小童どもならば、勇者だろうと認識を容易く変えてくれます。これで彼らを我らの命令に忠実な戦闘マシーンへ改造するのです。更にこれならば、ギルドの目を欺ける。例え国が疑われようとも教団は関係ない、と言い張ることが出来ますからね」
「なるほど、抜かりはないのね?」
「勿論です。現場の細かい指揮は“伍席”に任せていますが、念の為異世界人の動向を世話係として子飼いのものに監視させています」
“弐席”の言う通り、ツグミ達は国の動向に疑問を抱くことは無かった。
それほどまでに“伍席”の精神魔法は強力だった。
だからこそ生まれた傲慢、驕り。
それ故に彼らは見逃してしまった。極小確率で起こりうる可能性。
――新しい王の誕生。
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